アーサーの疑問
どうにも様子がおかしいアーサーに、瑞希は体を乗り出した。体重のかかり方が変わって、ベッドのスプリングが軋みを上げる。
細く白いその手指は、音もなくアーサーの額に添えられた。
アーサーの息が止まる。
瑞希はそれに気づくこともなく、心配そうな表情を崩すことはなかった。
「熱はないみたいだけど……アーサーも疲れたのね」
「あ……ああ………」
何を知ることもなく告げる瑞希に、アーサーはそう答えるだけで精一杯だった。
瑞希の指は体温を感じた後もまだ離れることはなく、ゆるゆるとアーサーの前髪を揺らすように撫でている。それがアーサーにはむず痒く、そして不本意だった。
「………ミズキは」
瑞希の指が動きを止める。
「ミズキは、どうして了承したんだ?その……俺も、一緒というのは……」
言いにくそうに口篭るアーサーに、ああと瑞希は察した。
アーサーが気にしている躊躇いを、瑞希も抱かなかったわけではない。いくらもう結婚は諦めたと口で言おうとも瑞希が成人した女であることには変わりなく、同じくアーサーも成人した男ーー異性だ。迷いは少なからずあった。
アーサーにしてみれば、瑞希の決断は侮辱とも取れるものだ。男として見られていないのではないかと思わせる。
自分とは違う理由で眉間に皺を寄せるアーサーに、瑞希は力を抜いた。
「だって、アーサーはそんなことしないでしょう」
確信を持って答える瑞希に、アーサーの目が見開かれた。
躊躇いは、確かにあったのだ。ただそれ以上に、彼への、彼の人柄への信頼が勝っただけのこと。それだけのことなのだ。
侮っているのではない。これは瑞希のアーサーへの信頼の形だ。
「参ったな……」
そんなことを言われたら、応えないわけにはいかないではないか。
やられたと天井を仰ぐアーサーに、してやったりと瑞希が勝ち誇って笑った。
「さぁ、私達ももう寝ましょう?」
「そうだな」
眠る双子達の頭をそれぞれに優しく撫でて、ゆっくりと目を閉じる。
深まった闇は速やかに、密やかに眠気を齎した。




