お風呂上がりのその後で
お風呂から上がってすぐに、ライラは早速アーサーへとおねだり特攻を仕掛けた。
「おねがい……パパ……」
うるうるとしたつぶらな瞳に見上げられて、しかも内容が内容なだけに断るなどということもできるはずもなく、アーサーは瑞希の予想に違わず、呆気なく陥落した。
「まったく……子供ながらに末恐ろしいな……」
はぁ、と物憂げに息を漏らすアーサーに、確かにと瑞希はくすくす笑った。
あれで無自覚なのだから尚更だろう。
今、彼らはアーサーの部屋にいる。
配置されたベッドは部屋の広さに相応しい面積を誇っているが、さすがに四人も乗り上がれば窮屈さは否めなかった。
養母と養父に挟まれて寄り添いあって眠る双子達は、すよすよと早くも可愛らしい寝息を立てている。あどけない寝顔を見てしまうと文句を言う気も無くなってしまうから、子供の無邪気さというのは侮れないのだ。
「意外と寝付きが良くて安心したわ。慣れない場所では神経質になってしまう子も多いから…」
「あれだけはしゃいだ後だ、緊張しているゆとりはないだろう」
瑞希がそっと子供達の肩までシーツを引き上げる。
「ルルは?」
まさか子供達に埋れてはいないかと心配したアーサーが瑞希に尋ねる。瑞希は大丈夫よと朗らかに答えた。
ゆっくりと、子供達を起こさないように慎重に上体を起こす。
すると、先ほどまでは瑞希の体に遮蔽されて見えなかったが、枕の隅あたりに不自然なへこみと、ハンカチがシーツのように掛けられていた。
「ルルもたくさん張り切っていたから、今はもうぐっすり夢の中なの」
ふふ、とまた笑い声を零す。ふわりと柔らかい微笑は慈愛に満ちている。
僅かにでも身動ぎすれば、それにつられてさらさらと髪が揺れ動いて、白い肌との色彩の対比に目が離せなくなる。
「アーサー?」
突然名前を呼ばれて、ハッと我に返る。瑞希は心配そうに眉間を狭めてアーサーを覗き込んでいた。
不自然に渇いた口の中を湿らすように生唾を飲み込む。
(……おねだりに負けるべきではなかったな………)
そんな心にもない後悔をしてしまうほどに、アーサーは動揺していた。




