ライラのおねだり
ぐったりと疲れきったライラが温泉の淵にしがみついている。瑞希とルルはそんな少女を達成感に満ち満ちた笑みで見ていた。
「ママぁ……」
疲れたよ、とライラが目を潤ませて瑞希を見上げる。それをいい子いい子と撫でてやって、こっちにおいでと手招きした。
ライラは素直に瑞希との距離を詰めたが、疲れの方が勝るらしい。自分で体を支えることもやめて、甘えるように瑞希にもたれ掛かった。ぺったりと触れ合う肌は栄養失調のせいで肌理が荒く、女の子なのにと痛々しく思うが、これからゆっくり治していけばいいのだと瑞希はそっと小さく痩せ細った体を抱きしめた。
湯船に浮かべた木桶の中から、いいなぁとルルの羨ましがる声がした。
「ルルは本当に甘やかすのが好きね」
「当然よ!だって、私はお姉ちゃんだもの!」
ふふん、と胸を張って言うルルに、思わず笑いが零れでる。二人のやり取りをなんとなく察しているのか、ライラがくすぐったそうに笑った。
「ママ、お風呂出たら、何するの?」
「そうねぇ……本を読むのもいいし、そのまま寝ちゃうのもいいわねぇ」
とりあえずのんびりするつもりだと伝える。ふぅん、とライラは聞いていた。
「ライラ、一緒がいい」
ぽつりと呟いた。
一緒というのは、カイルとだろうか。それぞれに個室を用意してあるが、本人達が望むならそれもいいだろう。
しかし、ライラの言う一緒とはそうではないらしい。
「ママと、パパも……」
見えないけど、ルルちゃんも。みんなで一緒がいいな。
ダメかな、と不安そうにライラが見上げる。瑞希は答えに困った。
ライラの可愛らしいお願いを、もちろん叶えてあげたいと思う。親子となったからにはそんなおねだりもあっていいだろう。
瑞希は迷いに迷って、最後の判断をもう片方の親に任せることにした。
「アーサー……パパが良いよって言ったらね」
苦し紛れの返しにも、ライラはきらきらと目を輝かせる。
きっと、彼もこの目に負けて頷くのだろう。瑞希は確信して乾いた笑い声を響かせた。
(ごめん、アーサー……)
瑞希は内心だけで、責任転嫁してしまった彼に詫びた。




