妖精の魔法
あっという間に見る影も無くなった小さな妖精に、意外と世話焼きなのねと瑞希は思わず笑ってしまった。
しかし疲れ切った今、ルルの気遣いは有難い。好意を甘えて受け取って、瑞希はそのまま体を休めることにした。
目を閉じれば草木が風に揺れる音だけが聞こえた。風が頬を撫でて過ぎていくのが気持ちよかった。
しばらくそよ風に吹かれていると、遠くからルルの呼ぶ声がした。
障害物がないからか瞬く間に距離を縮めて帰ってきたルルは、はい! と赤く輝く実を瑞希に差し出した。
「ほら、持ってきたわよ!」
「わっ、ありがとうルル。こんなにたくさん、重かったでしょう」
ルルは小さな体に見合わない量の木の実を持ってきた。ただのさくらんぼとはいえ大粒のそれは、ルルが簡単に持っていられる大きさではない。持てても二、三個がせいぜいだろうに、ルルは十は下らない数のさくらんぼを持ってきたのだ。
どうやって運んできたの? と瑞希が問うと、ルルは魔法を使ったのよ! と自慢気に答えた。
ルルが言うには、妖精はみんな魔法が使えるらしい。重い物を運ぶ時にもそうだが、火を起こしたりと生活の基盤は全て魔法のようだ。
何から何までファンタジー要素満載な話に、さしもの瑞希もただ頷くしかできなかった。
きっと妖精とはそういうものなのだろう。瑞希は理解ではなくそのままを受け入れることにした。
何はともあれ、せっかく調達してもらった果物だ。早速頂こうと一粒摘まんだ。つやつやと照るそれを口に入れて、種を噛まないように咀嚼する。
「わ、美味しい!」
さくらんぼは瑞希の予想以上にみずみずしくて甘かった。ぷつりと皮が破れた瞬間に甘い果汁が飛び出してきて、水などなくても十分に瑞希の喉を潤していく。
美味しい美味しいと目を輝かせる瑞希を満足そうに見ながらルルも一粒を両手で持って食べている。
「アタシたちは植物から生まれたから、植物にとっても詳しいのよ」
「ルルはすごいね。私、こんなに美味しいさくらんぼ初めてよ」
素直に褒める瑞希にルルは顔を赤くした。恥ずかしそうにしながらもえへへと照れて笑うルルが妹のようで、自然と手がルルの頭を撫でていた。
さくらんぼをすべて食べ終わる頃には喉も潤っていて、腹も満たされて歩く気力が湧いてきた。
「ほら、早く行きましょ」
ルルに急かされるまま、瑞希はまた歩き出した。