無理は禁物!
食事トレーニングを開始したばかりの子供達の前で普通食を食べるのは心苦しいものがあるが、大人の心境に反して子供達は特に何かを思うことは無いらしい。美味しいね、と仲良く笑いあっている姿は見ている者をほっこり和ませた。
「かんわぃいいい!!!!」
きゃあきゃあと憚りもせずに黄色い悲鳴を上げるルルを最早慣れたものと見なして、苦笑を誤魔化すようにミネストローネに口を付けた。
子供達は、話し声は元気そうでも食欲はまだあまり湧かないらしい。数口飲んでは間を開けて、と小休止を挟んでいる。半分も腹に収めた頃には休憩の方が長くなっていた。
「お腹いっぱいになったなら残してもいいのよ?」
無理して完食する方が体に良くないと心配する瑞希に、威勢の良かったカイルはしょんぼりした。ライラも頑張っていたが、今はもう辛そうに口元を押さえている。
瑞希がルルに目配せする。ルルは心得たと一つ頷いて、声も無く飲み残したグラスを引き下げた。
あ、とライラが声を漏らす。だめよ、と瑞希は彼女の小さな額を突っついた。
「あのね、食べれない時は食べれないって言っていいの。残したって、誰も怒ったりしないから」
「でも……」
カイルがか弱い声を上げる。彼にはアーサーが、寡黙ではあるが容認していた。そのまま、わしゃわしゃと不器用に頭を撫でてやる。
「ゆっくりでいい」
アーサーが発したのはその一言だけだった。カイルが不安そうに瑞希を見る。瑞希は言葉足らずなんだからとアーサーを苦く笑って、その通りだとカイルに頷いてみせた。料理というものは、誰かに美味しく食べてもらうからやりがいがあるのだ。苦しいのを我慢して完食されても、そんなものちっとも嬉しくない。
「さて。ご飯の後に言う言葉は?」
何て言うんだっけ?と笑って待つ。カイルとライラは二人見合って、それから何となく恥ずかしそうに「ごちそうさま」と呟いた。
言いなれないのか、もじもじとする様子がまた可愛らしい。
「はい、お粗末様でした」
にっこりと笑った瑞希に、二人もふにゃりとはにかんだ。




