表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
476/478

見守り天国

 まさかの草むしりまで終わらせた瑞希とディックがリビングに戻ると、子供たちが驚きの声をあげて飛び上がった。


「兄ちゃんっ!」


 加減もなく飛びついてきたカイルを、ディックは容易く抱き止めて笑ってみせる。


「ただいま、カイル」


 大きな手が甘やかすように金髪を撫でる。しゃがむと同じくらいになっていた目線が、今ではカイルの方が少し高くなっていた。


「ちょっと見ない間に大きくなったね」

「うん! いつか、兄ちゃんよりも父さんよりも大きくなるんだよ!」

「そっかそっか。じゃあ好き嫌いなくたくさん食べろよー」

「うんっ、て、ぅにゃぁあああ!!」


 ぐしゃぐしゃと金髪をかき混ぜられて、カイルが猫のような悲鳴を上げる。

 ケラケラと笑いながら手を止めないディックを、ライラは少し離れたところで見つめていた。

 引っ込み思案のライラは、慣れ親しんだ兄貴分にも遠慮を発揮しているらしい。声もなくミズキに擦り寄って、胸元で指をもじもじさせながらディックを見つめている。

 ミズキは指先で優しく小さな頭を撫で、ルルはひらりとライラの肩に降りた。


「ライラも、遠慮なんてしてないでディックに抱きつけば?」

「うぅ……あの、でもね、その…」


 頬を淡く色づかせて恥じらう姿は、身内の欲目を抜きにしても大変可愛らしい。妹を溺愛するルルが胸打たれないはずはなく、小さな体を目一杯使ってライラに抱きついた。


「あらあら」

「んもぅっ、可愛いんだからぁっ! いいのよいいのよっ、こんなに可愛いライラ、ディックにはもったいないわっ!!」


 あぅ、とライラが鳴き声のように小さな声を漏らす。

 パッとディックの目がライラを向いた。

 ライラの頬がリンゴのように赤くなる。


「ライラは来てくれないの?」

「……っ」


 躊躇いに足が蹈鞴(たたら)を踏んだ。

 おいで、と重ねたディックが優しい笑顔で手招きする。

 とん、と瑞希が背を押す。

 ライラはおずおずと一歩を踏み出した。とん、とん、と小さな足音が続いていく。

 ディックは急かすこともなく、優しい笑顔で待ち続けた。そしてたどり着いた小さな体を、慈しむべく抱きしめる。


「ただいまー、ライラ」

「っお、おかえり、なさい……!」


 綻んだライラの顔は、達成感以上の何かに彩られていた。

 小ぶりな手がぎゅうぎゅうとディックの服を握りしめて、幸せそうに笑っている。

 それがまた可愛らしく、ディックは腹の底から深く息を吐き出した。


「あー、可愛い。ライラ可愛いしカイルも可愛いし何この天国」

「わかるわ」


 すかさずルルが同意する。

 瑞希は吹き出すのをなんとか凌いだ。シスコンブラコンここに極まれり。


「んっ、こほん。じゃあ、私はお茶を用意してくるから。カイルとライラはディックのおもてなし、お願いできる?」

「できるよ!」

「できるっ」


 双子がぴんっと手を挙げる。目を瞬かせるディックとは対照的に、やる気に満ちた顔をしていた。


「じゃあ、よろしくね」

「あっミズキー、アタシも手伝うわー」


 翅をひらめかせてルルが瑞希の肩に止まる。


「今のうちに全力で甘えときなさーい」


 ディックには聞こえないのをいいことに、ルルが大声を出した。カイルとライラがお揃いの目で互いを見合う。今度は同時にディックに体当たりするのを見届けて、瑞希はルルとキッチンに移動した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ