見守り天国
まさかの草むしりまで終わらせた瑞希とディックがリビングに戻ると、子供たちが驚きの声をあげて飛び上がった。
「兄ちゃんっ!」
加減もなく飛びついてきたカイルを、ディックは容易く抱き止めて笑ってみせる。
「ただいま、カイル」
大きな手が甘やかすように金髪を撫でる。しゃがむと同じくらいになっていた目線が、今ではカイルの方が少し高くなっていた。
「ちょっと見ない間に大きくなったね」
「うん! いつか、兄ちゃんよりも父さんよりも大きくなるんだよ!」
「そっかそっか。じゃあ好き嫌いなくたくさん食べろよー」
「うんっ、て、ぅにゃぁあああ!!」
ぐしゃぐしゃと金髪をかき混ぜられて、カイルが猫のような悲鳴を上げる。
ケラケラと笑いながら手を止めないディックを、ライラは少し離れたところで見つめていた。
引っ込み思案のライラは、慣れ親しんだ兄貴分にも遠慮を発揮しているらしい。声もなくミズキに擦り寄って、胸元で指をもじもじさせながらディックを見つめている。
ミズキは指先で優しく小さな頭を撫で、ルルはひらりとライラの肩に降りた。
「ライラも、遠慮なんてしてないでディックに抱きつけば?」
「うぅ……あの、でもね、その…」
頬を淡く色づかせて恥じらう姿は、身内の欲目を抜きにしても大変可愛らしい。妹を溺愛するルルが胸打たれないはずはなく、小さな体を目一杯使ってライラに抱きついた。
「あらあら」
「んもぅっ、可愛いんだからぁっ! いいのよいいのよっ、こんなに可愛いライラ、ディックにはもったいないわっ!!」
あぅ、とライラが鳴き声のように小さな声を漏らす。
パッとディックの目がライラを向いた。
ライラの頬がリンゴのように赤くなる。
「ライラは来てくれないの?」
「……っ」
躊躇いに足が蹈鞴を踏んだ。
おいで、と重ねたディックが優しい笑顔で手招きする。
とん、と瑞希が背を押す。
ライラはおずおずと一歩を踏み出した。とん、とん、と小さな足音が続いていく。
ディックは急かすこともなく、優しい笑顔で待ち続けた。そしてたどり着いた小さな体を、慈しむべく抱きしめる。
「ただいまー、ライラ」
「っお、おかえり、なさい……!」
綻んだライラの顔は、達成感以上の何かに彩られていた。
小ぶりな手がぎゅうぎゅうとディックの服を握りしめて、幸せそうに笑っている。
それがまた可愛らしく、ディックは腹の底から深く息を吐き出した。
「あー、可愛い。ライラ可愛いしカイルも可愛いし何この天国」
「わかるわ」
すかさずルルが同意する。
瑞希は吹き出すのをなんとか凌いだ。シスコンブラコンここに極まれり。
「んっ、こほん。じゃあ、私はお茶を用意してくるから。カイルとライラはディックのおもてなし、お願いできる?」
「できるよ!」
「できるっ」
双子がぴんっと手を挙げる。目を瞬かせるディックとは対照的に、やる気に満ちた顔をしていた。
「じゃあ、よろしくね」
「あっミズキー、アタシも手伝うわー」
翅をひらめかせてルルが瑞希の肩に止まる。
「今のうちに全力で甘えときなさーい」
ディックには聞こえないのをいいことに、ルルが大声を出した。カイルとライラがお揃いの目で互いを見合う。今度は同時にディックに体当たりするのを見届けて、瑞希はルルとキッチンに移動した。




