コミックス5巻記念
「アンネー、計り終わったー?」
「んー……、ん! できたよ、ジャック!」
「よし、じゃあ混ぜて瓶に詰めてくか」
ライムやオレンジの搾り汁。砂糖と塩と、綺麗な水。全部を混ぜ合わせてできた、レシピ通りのスポーツドリンクは、僕たちにもできる新しいお手伝い。ほんのり甘酸っぱい、大切な友達との思い出の一つ。
「カイルたち、元気にしてるかなぁ」
「してる、と思うけど……ライラちゃんたちの街、河がないからここより暑いって言ってたよね」
だからこそ、わざわざグラリオートにまで避暑に来たんだろうけれど。
ほんの少しだけ前のこと。ジャックとアンネは、同い年の友達ができた。陽の光を集めたような金髪と、今日の空ような青い目の双子の友達。
カイルとライラ。それからモチ。
転んだところを目撃して、思わず声をかけた相手がカイルだった。
そして水遊びから川釣りに行って、アンネと一番の大物を釣り上げたのがライラ。
ちょっと変わった両親を持つ二人は、やっぱりちょっと変わっていた。
それを知ったのも、つい最近のこと。
そして、自分たちがカイルとライラと友達になったように、院長先生も、二人のお母さんと友達になったと言っていた。なんでも、「自慢話に花が咲いたから」らしい。話すのも聞くのも楽しいのよ、と院長先生は言うけれど、何の自慢かは教えてくれない。「もう少し大きくなってからきっとわかるわ」、と。いつものお母さんのような笑顔とは違う笑い方だった。
「アンネ、ジャック」
「はぁい」
「どうしたの、院長先生」
「そろそろ瓶詰めかと思って、手伝いに来たの。終わったら、ティナがプリンを作ってくれたから、みんなで食べましょう」
「プリン! 食べたい!」
「カラメルたっぷりのがいいなー!」
二人のお母さんにスポーツドリンクを教えてもらってから、聖養院には笑顔が増えた。例えば今みたいなスイーツを食べる機会ができたり、ご飯もおかずが一品増えたり。魚を燻す時間が短くなって、その分院長先生たちと一緒に遊んだりできる時間も増えた。
「ねぇねぇ、院長先生、プリン食べてから、今度は文の書き方教えてほしいな。次のお手紙の時に私も出せるようになりたいの」
「ええ、いいわよ。次にお手紙が届いたら、一緒に出しましょうか」
二人のお母さんと院長先生との手紙のやり取りは、もう二、三回目くらい。同じ封筒には、カイルとライラからの手紙も同封されている。綺麗な字ではないけれど、自分たちよりも綺麗な字の手紙は、ジャックとアンネの目下の目標だ。
正直、勉強はあんまり好きじゃない。だって、遊んでる方が楽しい。
でも、カイルとライラは自分たちと同じくらいの歳なのに、読み書きができる。それがとにかく悔しくて、手紙も約束したから、アンネやジャックもたくさん練習した。
「わたしたちでも、書けるかな……」
ちょっとだけ、アンネが下を向く。気持ちはジャックも同じだ。
不安そうに俯く二人に、院長先生はふんわりと微笑んだ。少しかさついた手が、ゆっくりと頭を撫でて髪を梳る。
「大丈夫。それに、字の綺麗さだけがお手紙ではないのよ」
「? お手紙なのに?」
「もちろん。私が子供の頃は、絵手紙が流行ったりもしたの」
懐かしいわ、と笑う院長先生は、自分たちよりずっと大人なのに可愛く見えた。
「それ、どんなの?」
「そのまんまよ。絵を描くの。お魚が美味しかったらお魚の絵を描いて、お花を見つけたらお花を描いて。でも、私は絵が下手だったから、お友達によく笑われたわ」
大変だった、と言いながらも、それだけではないのだと、アンネやジャックにもわかった。
「楽しかった?」
「ええ、とっても。思い出を楽しめることも、お手紙の良いところね」
自分の気持ちが、相手にも伝わるように。相手のことを想像しながらじっくりと考えるから、記憶に残りやすく、思い出として形にも残る。
語る院長先生の目はきらきらしていた。
「思い出……」
カイルと、ライラとの、思い出。
たった一日だけど、忘れられない一日だった。
「二人にも、そう思ってほしいな」
ふにゃりとはにかむと、院長先生もにっこり笑って頷いてくれた。
「じゃあ、そう伝えなきゃね」
「うんっ!」
すっかり顔を上げて元気になったアンネとジャックに、院長先生がぽんと優しく背中を押す。
「じゃあ、まずはプリンで頭の栄養補給しなきゃね」
「うん!」
「二人がびっくりするようなお手紙書く!」
どんな風にしようか、と話し合う二人と手を繋いで、院長先生は楽しそうに相槌を打った。
そして本体表紙に続く(かもしれない)




