円満家族
風呂を出てから、カイルは真っ先に瑞希とライラのところまで駆けつけた。ほかほかと湯気を微かに立ち上らせて、ライラの頭を撫でてから瑞希に抱きつく。ぽすっ、と軽い音を伴った衝撃を、あらあらと瑞希は笑顔で受け止めた。
「カイルは甘えん坊さんね」
「……だめ?」
不安そうに揺らいだ瞳に、そんなわけないじゃないと笑って返す。
すごく嬉しい、と抱きしめて返せば、そっかとカイルが照れ臭そうに笑った。
二人して暫くぎゅうぎゅうと抱き合っていると瑞希の腰のあたりにまた先ほどと同じようなぽすっ、という衝撃。今度はライラが抱きついていた。
子供達に挟まれるようにして抱きしめられて、堪らなく幸せを感じる。甘えてくれることはもちろんだが、その前提にある開心が何よりも嬉しかった。
子供達の好きなようにさせていると、遅れてアーサーがリビングにやって来た。
アーサーは三人の様子を見るなりきょとんと豆鉄砲を食らったような顔をしたが、すぐに微笑ましいと目元を和らげた。
「カイル、まだ髪を拭き終わっていないだろう」
カイルの後ろに回ったアーサーが、その小さな頭をタオルで揉むように拭いていく。カイルはそれを擽ったそうにしたが、ふと何を思ったのかくるりと体の向きを変えて、今度はアーサーに抱きついた。
ぽふっ、と小さな衝撃にアーサーの身動きが一瞬止まる。その隙にライラも同じくアーサーに抱きついて、アーサーはどうしたらいいのかと瑞希に困ったような視線を向けた。
「したいようにさせてあげて」
「む……それは、構わないが」
見ている分には微笑ましいが、されると何やら気恥ずかしい。
そんなことを口にするアーサーに、それでいいのだと瑞希は思った。
親になったばかりの自分達なのだから、慣れないことも知らないことも星の数はある。だからこそ、その空白を子供達と埋めていかなければならないのだから。
「はーい、お父さんと遊ぶのはここまでよ。続きはご飯食べてからね」
パンと拍子を打つことで注意を自分に向けさせる。その上で静止と催促をまとめると、子供達はもう少し構って欲しそうな様子だったが素直に体を離した。
その時のアーサーの心持ち寂しそうな様子には苦笑を禁じ得なかった。自分も大概だが、彼も負けず劣らずの溺愛ぶりだ。
「カイルとライラはもう何日かスムージーがご飯なんだけど、お腹空いてる?」
「オレ空いてる!」
「んと……ちょっとだけ……?」
溌剌と答えるカイルとは対照的にライラはやっぱり控えめだ。これも性格の違いによる差なのだろうか。
さっきはフルーツのスムージーだったから今度は野菜を使おうと決めて、アーサーに子供達を託し、瑞希はまたキッチンに籠った。




