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時期を見て

 トン、トン、トン。

 短く切り揃えられた手の爪が天板を叩く。頬杖を突きながらミズキが見下ろす紙はカレンダーだ。日付の横には小さく数字が書き込んである。たまにある書き込みのない日が、フェアリー・ファーマシーの定休日だ。


(んー……新しいお休み、いつがいいかしら……)


 紙袋の減り具合から来客数を算出してみたのだが、良いのか悪いのか、日による変化はあまりない。

 変動の目立つ日を気にしてみても、悪天候の日やその直後だったから、地面が泥濘んでいたり、といったことが原因の可能性が高い。その後にはいつもより来客数が増えている。

 規則的に来客数が増減する日がないのであれば、新しい休業日は瑞希たち次第。しかしそれがまた悩みの種だった。


(連休か、飛び石か……うーん、どっちも捨てがたい……)


 飛び石の休みにすると商品補充しやすくするけれど、体を休める時間があまり増えない。

 連休にすると丸一日は体を休められるけれど、一時的に品切れになる可能性がある。

 甲乙つけ難いと思いながらも、子供たちの負担が増えてしまっている分、瑞希の心は確実に休ませてあげられる連休に寄っていた。

 時間に余裕があれば話し合いもできたが、他にも決めなければいけないことはある。今回だけは独断専行もやむなしだ。


(最初はどんなに忙しくてもルルと二人で回せてたのに。常連さん、増えたなぁ)


 お店として嬉しいことなのに、まさか困る日が来るとは思わなかった。

 贅沢になってしまったと思いながら、瑞希はくるりと丸を書き込んだ。今まで通りの定休日と、新しい定休日だ。


(開店日数が少ない分、在庫は多めに用意しなきゃ。休み前と休み後は買い込みに備えて、……ああ、日持ちするものは今のうちから準備してもいいかも)


 秋に売り出した生姜糖とのど飴は、寒さの厳しいこの季節に売れない日はない人気商品だ。

 ただ、生姜糖ものど飴も、似通った味だから飽きがくる。

 需要は、体が温まるもの。風邪予防ができれば尚良し。それはわかる。わかるのだが、それに応えられるものが思い浮かばない。

 

 ホットミルクは家で作る。ココアはカカオが入荷出来ない。生姜湯では味が変えられない。


(甘酒は作り方がわからないし……あ、柚子茶?)


 皮ごと刻んで砂糖に漬け込んだ柚子茶は、ミズキが愛飲していたものの一つだ。アーサーや子供たちが好きそうな味だし、もし作れるなら、日持ちもするから集落への土産にも喜ばれるだろう。

 蜂蜜を入れれば栄養価も高くなるし、ビタミンたっぷりだから風邪予防の効果も見込める。


(柚子は地球での原産地を考えるとイリスティアなら栽培してるかしら? でも輸入なんてコストがかかりすぎるし……)


 何か別のもので代用できるものを探した方が効率もいいだろう。


(量産できるように収穫量の多い、今が旬の柑橘類、ねぇ。和柑橘なら浮かぶのになぁ)


 柚子、みかん、文旦、ハッサク、キンカン、スダチにカボス。まだまだ浮かぶが、洋柑橘となると途端に思い出せなくなる。


「オレンジ、ライム、シークヮーサー、グレープフルーツ……は駄目ね、薬の相性が悪いし……」


 オレンジとライムは大量消費しているから、これ以上の消費は避けたい。材料を偏らせてしまうと、万が一凶作になった時に困る。

 あれこれと思い浮かべてみるも、どれが旬かと考えると途端に自信がなくなってしまう。


「こればっかりは考えても埒が開かないか。発注とかもあるし、マルティーナさんに聞いてみよう」


 ちょうど近いうちに街に行く用事がある。その時にいくつか買って帰って、いくつか試作品を作ってみればいい。

 あくまで代替品として加工するのだから、下手なものもできないだろう。炭酸水で割っても美味しいから、上手くいくなら旬の柑橘を使った「なんちゃってレモネード」として普及させるのも面白いかもしれない。

 明るくなり出した見通しに、せっかくのアイデアを忘れないようにペンを走らせて書き留める。

 生姜に柑橘、あと何かもう一つ新作を考えたいところ。それは街の需要を確認してから考えることにして、瑞希はコキッと首を回した。


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