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便り

「にしても、ホント長いわね。どこまで行ってるのかしら?」


 ころんとモチの上で頬杖ついたルルが、ひょいひょいと指をあちこちへ動かす。それはルルが魔法を使う時と同じ仕草だが、今は魔力を込めていないからただの手遊びでしかない。

 飛べるかな、と期待していたらしいモチがしょんぼりと耳を垂らすので、元気を出してと摘んだばかりのハーブを差し出した。


「実家って言ってたじゃない」

「そうだけど、ちょっと遅すぎない? 寄り道でもしてるのかと思えてきちゃうわ」

「アーサーのことだから、寄り道するとしたらみんなのお土産を探しに、じゃない?」


 自分の物欲はほとんどないくせに目がきくから、殊、贈り物への妥協は一切しない。それが目に入れても痛くないほどに可愛がっている子供たちの物となれば、アーサーのことだ、気合を入れて吟味に吟味を重ねることだろう。

 店頭で睨み殺さんばかりに商品を見比べる姿が容易に想像できて、ルルはぷくりと頬を膨らませて押し黙った。

 悪戯に小さな頬を突くと、ぷすっと音がして空気が抜ける。むう、と今度は眉間に皺が寄った。


「……ミズキは、不安にならないの? アーサーったら、手紙も全然遣(よこ)さないじゃない」

「うーん……怪我してないかな、とかは心配だけど。便りがないのは元気な証拠、っていうし」


 のほほんと微笑みルルを避けてモチの頭を撫でる瑞希に、ルルは不満げに唇を尖らせた。つり目がちな目が、今度は暖炉前の弟妹に向けられる。

 カイルとライラはブランケットに包まりながら本を覗き込んでいた。絵本ばかり読んでいた双子も近頃は挿絵程度の本も読めるようになり、特に冒険物を好んで読んでいる。おそらくはアーサーの冒険譚の影響だろう。


「……そろそろ、一回くらい連絡くれてもいい頃じゃない?」

「そうねぇ。でも、アーサーにも都合があるだろうから」


 気長に待ちましょう、と言葉通りのんびりとした調子の瑞希に、ルルは仕方ないと溜息を吐いた。だって、みんなで一緒に暮らすようになってからこの方、ルルはいつだってアーサーとミズキの進捗を焦ったく思っているのだ。そろそろ匙を投げたくもなる。まあ、投げるつもりはまだまだないのだけれど。

 と、不意にルルが閃く。


「じゃあ、アタシたちから送っちゃダメなの?」


 押してダメならさらに押す。

 ルルの提案に、瑞希はそうねぇ、と緩く首を傾げた。


「ダメ、ってことはないけど……問題は宛先なのよね」

「あちゃー……」


 ルルがペチンと額に手を当てた。

 実家が王都とは聞いているが、どの辺りにあるのか、明確な宛先を聞いていない。何処に届ければいいのか分からなければ、手紙を送りようがない。

 追究しないという約束がこんな形で裏目に出るとは思っていなかった。


「王都に一人でも知り合いがいたらよかったのに」


 しかし、王都で知り合った人はアーサーの父親のジェラルドのみ。顔を合わせだけで住所など聞いていないから、こちらも頼ることはできなかった。

 あちらで再会したダグラス老ならもしかしたらアーサーたちの家を知っているかもしれないが、いくら好意的に接してくれるとしても相手は領主。気安く手紙を送れるような人ではない。


「あ、でも」


 そういえば一人だけ、比較的気安く連絡の取れる人がいる。


「ディック、まだ王都にいるかしら?」

「あ、そっか。お城勤めだもんね」

「王都にいるなら、会う可能性もあるだろうし。ダメ元でお願いしてみよっか」


 演練で帰省したこともあるディックだから、もしかしたらまたどこか遠方に出ているかもしれないが、その時はその時。

 そう割り切って、まずはと瑞希は挨拶や近況報告からつらつらとペンを走らせた。

 時折ペンを止めてはまた走らせる。

 だいぶ冷え込んできたから、ハーブティーとかも一緒に送ろう、とまるで姉か何かのようにあれこれと世話を焼く瑞希をぼんやりと眺めながら、ルルはふっと軽く息を吐く。


(ディックも災難ねぇ。もし本当にアーサーにあったら、開口一番文句言うに違いないわね)


 でもって、アーサーに軽くあしらわれながら、ミズキや弟妹分たちに意気揚々と手紙を認めるのだろう。なんだかんだで人が好いから。


「ライラー、カイルー、ミズキがディックに手紙送るから、二人も送るなら書いちゃいなさーい」

「! 書く!」

「オレもー!」


 言うが早いか、二人は競い合うように自分たちのペンを取りに走る。


「こぉら、廊下を走らないの!」


 瑞希の堂に入った注意が家内に響いた。

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