むくむく好奇心
瑞希が国軍の野営地に顔を出すと、昨日より物が減っていた。すっきり、というよりは物寂しい印象を受けた。
出立は明日だというが、できる準備は前倒しで行っているらしい。
新兵たちは、ジークハルトの悪戯が効いたのか飲みすぎた者はいなかったようだ。気合いの入った発声が聞こえてきた。
(これも今日で最後なのねぇ)
たった五日だったのに、耳に馴染んだものだ。そう思いながら、見慣れた面々と二、三言葉を交わして配達を終える。
これまでとの違いは、出立前で立て込んでいるのかジークハルトと顔を合わせることは無かったことだ。
強い警戒を抱きながらも瑞希を避けることはしなかった人だから、本当に忙しいのだろう。
豊穣祭で会えるだろうと特に何かすることも無く、瑞希は馬と共に家路を辿った。
「ただいまー」
「おかえりなさーいっ」
玄関で帰宅を告げると、子供たちの元気いっぱいな声と足音に出迎えられた。
寝起きの悪いカイルも完全に覚醒している。
「ただいま。三人とも、もうお昼寝はいいの?」
まだ昼の営業開始まで時間はあるけど、と問うも、即座に「いいの」と返された。いつも寝坊助なカイルさえ完全に覚醒しているから、本人たちの言う通り昼寝はもう十分なのだろう。
「じゃあお茶でもする?」
問えば、それには満面の笑みで頷かれる。
けれど、それにふとライラが待ったをかけた。
「あ、でもおやつは我慢なの」
「あら。お腹はいっぱい?」
「ううん。今日はお米の日だから我慢なんだよ」
カイルの補足に、ああ、と思い出した瑞希は頷いた。
「二人の大好きなお菓子が出るんだったわね」
「うん!」
だから我慢、と楽しそうな双子に、どんなお菓子か知らない瑞希とルルは微笑ましそうに目元を和ませた。
きゅう、と腰に抱きつく双子の背を促して、リビングに入る。そこにアーサーの姿はなく、おや? と思っていると、キッチンから声をかけられた。
か細く聞こえる陶器の音はティーセットだろう。声量も考えずに話していたから、聞こえて先回りで動いてくれたのかもしれない。
「ハーブティーとコーヒーを淹れるが、ミズキはどっちにする?」
「んー……コーヒー。お願いしますっ」
「了解」
優しく細められた目に笑顔を返して、瑞希は子供たちとソファーに向かった。
それに少しの間を置いて、アーサーもトレーとともにやってきた。
ハーブティーは子供たちに、コーヒーはアーサーと瑞希の手元に。
カップを冷えた手で包むと、じんわりと痺れに似た熱が伝わってくる。
横目に時計を確認すると、昼の開店まで十五分弱。長くはないが、一息つくには十分な時間があった。
「今年は何個食べれるかな?」
「三個は絶対だよね」
すっかり頭の中をお楽しみで埋め尽くした双子に、ルルが驚き半分呆れ半分といった顔で苦笑する。
「そんなに食べるの?」
「ルル姉も食べてみたらわかるよ。ぺろっと食べちゃうもん」
「……ご飯も食べてる?」
胡乱げな目をしたルルに、もちろんと双子が頷く。
「あれは別腹なの!」
声を揃えての主張に、飲まれたルルは「そっか……」と引きつった表情で受け入れた。
「どんなお菓子なのかしらねぇ」
「そうだな……双子の言葉のどれも間違っていない、とだけ言っておこうか」
種明かしは自分の目で、と興味をそそる言い方をするアーサーに、もどかしさを覚えながら瑞希も素直に頷いたのだった。




