久しぶりの昼下がり
昼食は鶏肉とブロッコリーを加えたニョッキで済ませ、思っていた以上に空いた時間で子供たちと戯れる。
国軍への配達があるため昼食後を一緒に過ごすのは久しぶりで、左右も膝の上も子供たちに陣取られて身動きの取れなくなった瑞希は、困った声を上げながらも嬉しそうにしていた。
「膝枕はいいけど、そのまま寝ないでね?」
「だいじょーぶだよー」
平気平気、とカイルとライラが手をひらつかせるけれど、答える声が少し眠たそうに聞こえるのは気のせいだろうか。
もしもの時は、とアーサーに目配せでお願いすると、おそらくは同じように感じていたのだろう、苦笑とともに頷かれた。
指通りの心地よい髪を堪能しつつ、緩やかに流れる時間を過ごす。
そのうちに、子供たちは瑞希が予想した通り微睡み始めたので、やっぱりな、という息が零れた。
「だから言ったのに……」
そう文句を言いながらも、瑞希の声は子供たちを慮って小さく潜められている。
アーサーもそれに倣い、できる限り音を立てないように注意して瑞希の傍に寄った。
「寝る子は育つ、と言うだろう」
宥めるような口調に、瑞希は肩を竦めた。
アーサーが指の背でライラの頰をくすぐるように撫でる。
ライラが身動ぎしたのも少しのことで、むしろねだるようにすり寄っていた。
「……ジークハルトとはどうだ?」
「悪くはなってないわ。おふざけに乗ったりもさせてもらったから、始めよりは打ち解けられたと思う」
希望的観測かもしれないけれど、と言い置いたけれど、瑞希の成果はアーサーの予想を超えるものだったらしい。
「あの堅物が、おふざけ……?」と信じられなさそうに呟いていた。
「一応聞くが、誰を相手にしたおふざけなんだ?」
「軍の新人さんたち。すごく慕われてるのよ」
「慕われ……いや、悪いやつではないが……」
ううむ、と眉間にしわを寄せて唸るアーサーに、瑞希はたまらず笑ってしまった。その拍子に体が揺れて、子供たちがむずがるように顔を顰める。少し待てばすぐにまた表情が和らいだので、瑞希はふう、と知らず知らずのうちに入っていた肩の力を抜いた。
傍らでは、未だにアーサーが怪訝な表情をしている。
「しばらく会わないうちに、丸くなったのだな……」
感慨深そうな呟きに、瑞希はまた笑いそうになるのを必死に堪えた。
「今日の豊穣祭で、お話してみたら?」
瑞希の提案に、アーサーはそうするとすんなり頷いた。それから、何かに気がついたように立ち上がり、どこかへ消えていく。
離れていたのはほんの短い間で、帰ってきた彼は手にブランケットを携えていた。
カイルとライラ、そして瑞希とその膝元のルルに、起こさないようにブランケットをかけてやる。
一枚布が被さって、足がいっそう温かくなった。
「ありがとう」
「どういたしまして。……と言いたいところだが、時間は大丈夫か?」
申し訳なさそうな顔で時計を指し示されて、瑞希の目が動く。
アーサーの言う通り、そろそろ出かける準備をしたい頃合いだった。
「今日は俺が行こうか」
「ううん、私に行かせて」
やると決めたのは自分だから、とアーサーの気持ちだけを有り難く受け取る。
至福の寝顔を名残惜しく思いながらも、瑞希は慎重に子供たちを退かせにかかった。
小さな頭は見かけによらず重量がある。瑞希がカイルの頭を退けている間に、アーサーが掬うようにルルを持ち上げ、クッションに移動させた。それからライラの頭を持ち上げてもらい、その隙に瑞希が後ろにずれる。
重みが加わっていたからか、痺れた足が縺れた。
「っと。大丈夫か?」
「あ、はは、ありがとう。大丈夫よ、少し痺れただけだから」
抱きとめるように支えてもらい、痺れた足を慣らすように動かす。幸い痺れは軽いもので、すぐに元の感覚が戻ってきた。
アーサーにもう一度礼を言って、しっかりと自分の足で立つ。見送りに、と爪先を動かそうとするアーサーを制して、瑞希一人がリビングのドアに手をかけた。
「じゃあ、行ってくるわね。子供たちのこと、お願いします」
「ああ。気をつけて」
瑞希は笑顔で頷いて、配達へと向かった。




