似た者親子
予定より早く売れた二日酔いの薬を補充して、まもなく定期馬車に揺られて来た客たちを出迎える。
今日は麦の日で、主食系が多く振舞われることがわかっているため朝から食料品の売れ行きは下火だった。
けれど、それを補うように整腸剤が多く売れる。食べ過ぎを予見してのことらしく、「明後日からはダイエットの日々よ」と悩ましげな溜息を零す人も少なくなかった。明日から、と言わないあたり、豊穣祭を満喫する気満々だと伺える。
「ミズキ、ちょっといい?」
「ルル? どうかしたの?」
会計待ちの客がいない時を見計らって、ルルが瑞希の元にやってきた。ちょこんとカウンターに腰かけたルルに、小休憩とハーブティーを渡す。小さなカップに注がれたそれを礼とともに受け取って、ほっと一息吐いてからルルが口を開いた。
「今日もディックのところにスポーツドリンク持っていくんでしょう? どのくらい持っていくの?」
「ちょっと多めに持っていこうと思ってるけど、どうして?」
二日酔いの話は伏せて答えると、ルルは小さな唇を尖らせて難しげな顔をした。
そういえば、今日は暑いわけでもないのにスポーツドリンクがよく売れていた気がする。
それを気にしてのことだろうかと在庫を聞いてみると、瑞希が思っていたよりも少ない数を答えられた。
「お昼もこの調子だと足らないかもって思って」
「そうね……。じゃあ、お昼に追加で作っていくわ」
家を出る前に作って、瓶詰めをみんなにお願いしようと頭の中で算段をつけたところで、待ったとルルに挙手される。
「それ、アタシたちで作るわよ」
「え?」
「ミズキ、毎日配達で疲れてるでしょう? アタシたちはお留守番中特にすることもないし、むしろさせてくれるとあの子たちも喜ぶと思うのよね」
お手伝いが減って不満そうにしてたし、と言うルルに、瑞希も思い当たる節があって困ったように苦笑した。
冬が近づき、気温が低くなったことで水が蒸発しにくくなったため、今は畑の水やりを二、三日おきに減らしている。そのせいで薬草畑の世話に精を出していた双子は、手持ち無沙汰になっているのだ。
そして、留守番としてずっと家にいる分、ルルは瑞希よりも多くそれを目の当たりにしている。やることがないと不貞腐れる弟妹たちへの、姉なりの気遣いなのだろう。
「お手伝いがない、って、悪いことじゃないはずなのにねぇ」
「仕事中毒ならぬお手伝い中毒ね。ミズキに似たのよ」
「ええ、私なの?」
心外だと言うような声の瑞希に、他に誰がいるのとルルがジト目で首を振る。
「とにかく、スポーツドリンクはアタシたちで作るからね」
「はぁい」
いいのかなぁ、と迷う気持ちはあるけれど、実際問題、ルルたちが頼まれてくれるなら瑞希としても楽なことに違いない。
アーサーもいることだし、万が一ということもないだろうと自分に言い聞かせた。
「じゃあ、お願いするけど……無理にいっぱい作ろうとしなくてもいいからね?」
たとえ《フェアリー・ファーマシー》で売り切れになったとしても、街の薬屋でも同じ作り方、同じ価格で販売しているのだから誰かが困るということもない。
持ち前の責任感の強さで無理をされては、と危惧する瑞希に、はいはいとルルは適当に手を振った。
「わかってるわよ。ちゃんと休憩時間も確保するわ」
アタシがいて、あの子たちに無理なんてさせるはずがないでしょう。
任せなさいと胸を叩くルルに何も言えず、瑞希はぎこちないながらもなんとか頷いた。
それを見届けて、じゃあねとルルが飛んでいく。
入れ違いに会計に来た客に意識を向けて、瑞希は差し出された商品を受け取った。




