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ジークハルトの印象

 昼にスポーツドリンクを届けて、豊穣祭の時に不足物の確認をして、翌日の昼にまた配達する。

 連日瑞希と顔を合わせることにジークハルトは思うところがあるらしかったが、それでも仕事に関することだからか文句を言うことはなかった。

 三日も続ければ、慣れるのかもしれない。

 ジークハルト以外にも言えるようで、豊穣祭の時にはちらほらと国軍の兵士からも声をかけられるようになった。


「きみ、あの方と知り合いなの? よく話してるけど……」

「話すといっても、お仕事の話ですよ。お薬の依頼を頂いたのは私の店なので」


 そう答えれば、大概の者は納得したように頷いた。

 話を聞いてみると、彼らにしてみればジークハルトは雲の上の人らしい。だから、平然として彼と話す瑞希は何者なのかと興味を持ったようだ。

 そのうちの一人が、ふと尋ねた。


「怖くないの?」

「怖い、ですか?」


 何がだろう、と瞬く瑞希に、「総帥閣下」と潜めた声で続けられる。


「愛想の良い人じゃないだろう? きみみたいな子には、余計そう思えるんじゃない?」


 仕事とはいえ大変だね、と労わるような言葉に、瑞希はますます首を傾げた。


 たしかに、警戒される前からジークハルトは威厳に溢れる人ではあったが、警戒されている今でも、瑞希としては話しかけ辛いという印象はない。

 むしろ、瑞希が顔を出すとすぐに仕事の話をさせてもらえる分、タイミングを見計らわずに済んで楽なくらいだ。


「愛想は良くないかも知れないけど、でも良い人だと思いますよ」


 それは、瑞希の正直な感想だった。

 何人かが自身の背後を確認する。驚いた顔をいくつ向けられても、それは変わらなかった。

 落ちた沈黙に、居心地の悪そうな顔をされる。

 それを払拭すべく、瑞希はあえてにっこりと笑った。


「酒の席は無礼講と言いますし、この機会に話しかけてみるのも良いと思いますよ。上手くいけば、あまり知られていない面白いお話も伺えるかもしれませんし」


 長く軍に在籍していらっしゃる分、そういうお話は多く知ってるかも、と唆すように言えば、好奇心の強い目がジークハルトを探し始める。

 一人が走り出すと、抜け駆け禁止とばかりに他の面々もその後を追った。

 怒濤の勢いで詰め寄られたジークハルトは、いったいどんな反応をするのだろう。見てみたい気もするが、自分がいてはきっと隠されてしまうからと自重した。

 訓練後にも関わらず元気の有り余る彼らを優しい笑顔で見送った瑞希の許に、入れ違いでディックがひょっこり顔を出す。


「ミズキも相変わらずだよねぇ」


 懐かしむような口ぶりに、瑞希は目をきょとんとさせた。

 何のことだかさっぱりわからないが、それでいいのだとディックが言う。

 追求を避けるように双子の所在を聞かれて、瑞希は仕方ないと息を吐いた。


「子供たちならアーサーと一緒よ」

「そうなの?ってことは……あ、いたいた」


 小さな姿は見つけにくいが、背の高いアーサーはすぐに見つけられた。人混みで見えないが、彼の目が下を向いているから近くに子供たちがいることは間違いないだろう。

 言葉で示し合わせるまでもなく、瑞希とディックの足は自然とそちらに向いた。

 近づく途中で、ルルが気づく。

 内緒、と唇に人差し指を立てると、心得たと悪戯っぽい笑顔で頷かれた。

 こっそりと背後に周り、何も食べてないことを確認して、カイルの両目を手のひらで優しく覆う。ライラの目はディックが隠していた。

 アーサーには呆れた目を向けられているが、何を言われることもなかった。


「だーれだっ!」


 問いかけはルルがしてくれた。


「母さん?」

「お兄ちゃん!」

「正解!」


 瑞希とディックが声を揃えれば、双子が可愛らしい笑顔ではしゃぐ。それを見守るアーサーは、優しく目元を和ませた。


(やっぱり)


 瑞希は胸中で独り言ちる。

 アーサーもそうだが、どんなに愛想のない人でも、目の動きを見ればその感情はわかりやすいものだ。

 逆に、恐がって目を合わせられない人ほど、思い込みが働きやすい。

 彼らは、それに気づくだろうか。

 明日の配達が、いつもより少し楽しみになった。

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