おすすめの一品
「あ、ミズキ」
両脇を双子に抱きつかれたディックが、ひらひらと手を振る。
むっとしたアーサーを尻目に手を振り返すと、それに反応してか双子にも手を振り返された。
「訓練お疲れ様、ディック」
「なんか、ミズキに言われるとこそばゆいね」
「今さら初心っぽい反応してもねぇ〜?」
なぁにそれ、と揶揄うルルに、瑞希がころりと一笑した。
「ディック、ご飯は食べたの?」
「ちょっとずつ摘んでるよ。今は、ちびたちと料理全制覇を目指してるところ」
「ええ? そんなに食べられるの?」
食べすぎではないかと瑞希が心配を滲ませると、大丈夫だとディックから宥められた。
全制覇といっても、一皿をみんなで分け合っているらしい。ディックには物足りないかもしれないが、いろんな料理を楽しめて子供たちはご機嫌だった。
「どのくらい食べたの?」
「えっと……いっぱい?」
「鶏肉と一緒に煮込んだやつとか、コロッケとか。……あと、ちょっと酸っぱいやつもあったよ。お酢の味がした」
「マリネね」
時々ルルの補足を受けながら、食べたものを挙げられる。
小さな手が指折り数えていくと、開いていた両手が拳になった。ちょっと離れていた間に、随分と食べていたらしい。
挙げられた料理はルルも一緒に食べていたようで、こんなにもたくさん食べられるとは思わなかったと嬉しそうだ。
「パパとママは、何食べたの?」
「スープ、ピザ、グラタン、あとオムレツも食べたな」
「私はスープとサラダね。あと、豆茶も頂いたわ」
極端な差に、ディックと子供たちが驚いた声を上げた。それだけ? と何故か悲しそうな顔までされて、悪いことなどしていないのにちくりと良心を呵責される。
「少しお仕事のお話があったの。これから食べるから、大丈夫よ」
「! じゃあオレ、母さんの分貰ってくる! 何がいい?」
「いいの? ならカイルたちが好きだな、って思った料理がいいなぁ」
「パパは?」
「では、俺も同じものを」
そう言えば、双子とルルはぱっと破顔して、一目散に料理の列に飛んでいく。
気に入ったのどんな料理かと届くのが楽しみになった。
「そういえばミズキ、仕事の話って?」
わざわざこんなところで、と首を傾げるディックに「国軍のよ」と短く答えると、彼は不思議そうに目を瞬いた。
「納品で完了のはずじゃなかった?」
「一応はね。でも、何かの理由で足りなくなっても困るし、訓練ってたくさん動くでしょう?」
「あ、スポーツドリンク!」
合点がいった、と顔を明るくしたディックに、その通りと頷いてみせる。美味しかったという感想には、お礼の言葉で以って応じた。
「なるほどねぇ。オレたちとしては有り難いけど、ミズキ、根を詰めすぎないでよ?」
「ありがとう。でも、大丈夫よ。やりたくてやってることだもの」
「本当かなぁ……。アーサー、ちゃんと見張っといてよ」
「お前に言われるまでもない」
仏頂面をしたアーサーの返しに、それもそうかとディックは笑っていた。
気が済んだのか片腕で抱えたモチを撫でて、「お前も頼んだぞ」と言い聞かせる。
なんでモチにまで、と瑞希が苦笑いすると、「もふもふしてて癒されそうだから」と真面目な顔で返されてしまった。
やがて、料理を貰ってきた子供たちが帰ってくる。
「母さん、お待たせっ!」
「パパの分も貰ってきたよっ」
「もう、すっごい行列だったのよ」
矢継ぎ早に投げられる言葉の一つ一つに頷いて、ありがとうと差し出された皿を受け取る。
子供たちが持ってきたのは、こんがりと焼き目のついたハンバーグだった。赤みがかった茶色のソースからは、ほのかにトマトの香りがする。
「ああ、それかぁ。たしかに、三つ四つはぺろっと食べちゃうよね」
「そんなに食べたら胃がもたれちゃうわよ」
大袈裟なんだからと笑う瑞希に、否、と口を挟んだのはアーサーだった。
「食べてみろ。これはもたれない」
「もう、アーサーまで……」
肩を竦めながらも、子供たちの気遣いを無下にするはずもなく、まずは一口食べてみる。
焦げ目の割に柔らかなそれは、予想よりもあっさりとしていた。
食感も味も確かにハンバーグなのに、あまり油っぽくないのだ。
ぱちぱちと瞬きを繰り返す瑞希に、ルルが種明かしをする。
「これ、大豆で作ったハンバーグなんですって。お肉は使ってないそうよ」
「豆……あ、大豆?」
なるほど、そういうことか。
合点がいった瑞希は改めて手元のハンバーグを見た。
肉を使わない、フェイクミート。話には聞いたことがあったけれど、食べるのはこれが初めてだ。
もう一口、正体を知りながら食べてみても、肉じゃないとは思えない。慣れているようで新鮮な感覚だった。
「うん、美味しい」
ありがとうね、と笑顔でお礼を言うと、子供たちが満面の笑みを浮かべた。




