瑞希とライラ
使い終えたグラスやカップを流し台に戻して水につけておく。夕飯がまだだから、洗うのはその後にしよう。
カイルはアーサーとお風呂に入っている。全身ぴかぴかにしておいでと背中を押したら息巻いて駆けていった。
ライラは女の子だから瑞希と一緒に次に入る。 ルルは浴槽に浸かるには危険が多いので桶風呂だ。
この家の風呂はかなり大きい。というか、風呂は温泉だ。しかも天然の。
植物から生まれる妖精達は地質などにも敏感のようだ。見渡す限り木、木、木というログハウスだというのに、いきなり水の気配がすると言い出して、地面に穴を開けたのだ。そして、出てきたのが温泉の源泉。
これはいいと妖精達は湯を引いてきて、ログハウス内に温泉を作ってしまった。猫足のバスタブは用意したその日に撤去され、日本人ならば見慣れた典型的な温泉浴場が完成した。
浴場の方からはカイルがはしゃぐ声が響いてくる。はしゃぎ過ぎて疲れないといいけれど、と案じてしまうのは紛うことなく親心だろう。
「カイル、楽しそう……」
ほにゃりと目を細めたライラは嬉しそうだ。
ライラは今瑞希の手伝いをしている。といっても調理に関わらせることはまだしていない。テーブルを拭いてもらうだけの簡単な作業だ。
「ライラは、ご飯の後に私と一緒に入ろうね」
言いながらも瑞希の手は止まらない。
一人暮らしだった期間も長く、もともと料理の得意な瑞希の動きはスムーズだ。パンを焼いている間にスープを手掛け、スープを煮込んでいる間にサラダも用意する。
ライラはそんな瑞希を幸せそうに見ていた。
「ママ、机終わったよ」
とことことやって来たライラが瑞希のエプロンを引く。褒めてほしいな、と口には出さないが控えめに訴えてくる小さな娘を褒めない道理などあるはずもなく、瑞希はありがとうと言葉を添えてライラの頭を撫でた。
ライラの目が猫のように細められて、もっとと手のひらに頭を押し付けられる。
(可愛いわ~。私の子供達ったら、本当に可愛いわぁ)
にこにこと表面上は大人しくしているが、内心では子煩悩全開だった。
しばらく二人してふにゃふにゃとはにかんでいると、火にかけたままだった鍋がカタカタと揺れた。
ハッと我に返って鍋を取り上げる。吹きこぼれや煮詰まりを避けられたことにほっとする。
パンの様子はどうだろうと様子を覗くと、こちらもちょうどいい具合に焼きあがっていた。
「さて、じゃあテーブルに並べて行きましょうか。パンをバスケットに入れるから、ライラはそれをテーブルまで持って行ってくれる?」
できるかな?と頼んでみると、ライラはうん!と少しだけ大きな声で答えた。
じゃあお願いしようかな、と二人分のパンをトングで柔らかく挟み、紙ナプキンを敷いたバスケットに移していく。両腕を伸ばしたライラにお願いね、と声をかけて、テーブルへ運んで行く後ろ姿を見守った。




