明後日
そうして、日中は店の仕事に精を出し、アーサーと双子お手製の料理でやる気を回復させて、薬作りに勤しむ。
双子は待ちに待った豊穣祭が近づいてきていることもあって、日を追うごとに声を高くしてはしゃぐようになった。
「ママーっ、ルルちゃーんっ」
「はーい、いまいくー」
調剤室の外から呼びかけるライラに応えて、作業の手をいったん止める。
足元に置いた木箱には、国軍に納品するための薬が詰め込まれている。
早ければ今晩、遅くとも明日には、数が揃う見込みだ。
「ちょっとギリギリな気もするけど、無事に納品できそうね」
「何言ってるの、たった四日でこれだけの量なんて、フェスティバル以来だわ」
言われてみればそうかもしれない、と瑞希は半笑いの表情で思った。観光客が一気に流れ込んできたことで、営業時間は同じなのに目が回るほどの忙しさだった。
「でも、いよいよ明後日なのね。……ふふっ、どんな料理があるのかしら」
「カイルとライラが言ってた『茶色くて美味しい料理』も気になるわよね」
「それは絶対食べるって決めてるの」
ふふ、とまたルルが笑い声を零す。
楽しみね、と瑞希も柔らかい微笑を浮かべていた。
そこに、今度は別の声が扉の声から投げかけられる。
「母さん? ルル姉?」
心配そうな声音で問いかけるのはカイルだ。
思いの外待たせてしまったらしい。瑞希は手早く作業机ごと布で覆って、椅子を蹴飛ばすように立ち上がった。
「お待たせーっ」
「ごめんね、今終わらせたから」
後ろ手にドアを閉めてカイルと顔を合わせると、小さな頭が金髪を揺らして左右に振られた。
けれど、その最中にきゅるると可愛らしい音がして、白かった頰に赤みがさした。
恥ずかしいと顔をうつむけたカイルに、気にしないの、と頭を撫でる。
「ミズキ、アタシもお腹すいちゃった」
「私も。お腹と背中がくっついちゃいそう」
胃のあたりに手を当てて空腹をアピールすると、カイルがふにゃりとはにかんだ。
その小さな手を繋いで、ルルを肩に乗せる。
「アーサーもライラも、きっとお腹ぺこぺこだわ」
早く降りましょ、と誘うと、二人が嬉しそうに頷いて応える。
「今日のご飯は何にするの?」
「卵があるから、いくつか使いたいなぁ、ってところかしら。何か食べたいものはある?」
「んー、なんでもいい。母さんのご飯、全部美味しいから」
嬉しくも困ってしまうことを衒いもなく言い切られて、瑞希は擽ったそうに首をすくめた。
そんなことを言われて、腕によりを掛けずにいられるわけがない。
(手間暇かけるのは定休日まで取っておいて、今日はぱぱっと作れるものね)
是非ともこの期待に応えなければ、と頭の中でいくつものレシピを思い浮かべる。
薬作りの疲れも何処へやら、溢れてやまないやる気に、瑞希は踵を弾ませながら一階へと降りたのだった。




