手紙と秋
さて、ディックの見送りを済ませてから、瑞希たちは午後の営業に勤しんでいた。
暑さも午前よりさらに増したのだが、夏を思えば然程苦には感じないのか、来客数に大きな変動はない。
サービスティーのデキャンタを取りに少しカウンターを離れていた瑞希に、アーサーが声をかけた。
「ミズキ、手紙が届いたぞ」
「はーい! ありがとう、アーサー」
受け取った手紙は、思っていたより数が多かった。
「朝に出した手紙の返事か?」
「多分。差出人はみんなそうだから」
まず一通目は、馴染みの薬問屋から。仕入れの増加について、大歓迎だと頼もしい言葉とともに了承の旨が綴られていた。
続いて、青果店。当然だが、夏と秋では収穫できる果物が違う。それでも問題ないか、という確認の手紙だった。
そして街の薬屋たちからの返事にも目を通し終えて、瑞希は胸を撫で下ろした。
「その様子だと、色好い返事がもらえたみたいだな」
「ええ。いくつか折り返しが必要だけど、この分なら問題ないわ」
嬉しさを前面に出す瑞希に、アーサーは少し表情を柔らかくさせて、商品補充に戻っていった。
定期馬車が着いてまもないこのタイミングでは、会計に来る客はまだいない。
瑞希は筆記具を取り出して、早速返事を認めた。
(ええと、秋の旬はライムと……あ、レモンもあるのね)
どちらも生食には向かない柑橘類だが、スポーツドリンクに使うにはむしろ都合が良い。
是非それらを、とペンを走らせて、青果店への返事とした。
そして、街の薬屋たちへの折り返しの手紙。材料の仕入れの目処が立ったことを書き記し、別紙でスポーツドリンクの発注書を作り、同封する。
そうして店の外へと目を向けると、真上にあったはずの太陽はいつのまにか傾き始めていた。
(風が冷たくなってきたわね……)
秋の夕日はつるべ落とし。まだ夕方というには早いけれど、遅くないうちに空気も冷え始めるだろう。
瑞希は客の流れをさっと確認してから、カウンターを出て窓を閉めた。
「あら、もう閉めちゃうの?」
「うん、そろそろ風が少し冷たくなるから。あとルル、最後の便が来たら教えてくれる? お手紙を出したいの」
「りょうかーい」
ルルがひらりと手を振って、今度は双子の方に飛んでいく。その背を見送った視界の端に、商品を持った客の姿が入り込んだ。
「いらっしゃいませ。商品をお預かり致しますね」
足早にカウンターに戻った瑞希がお決まりの言葉とともに商品を受け取り、会計作業に意識を切り替える。
相手がお金を出している間に梱包まで済ませると、会計待ちの客が焼きドーナッツを真剣な顔で見つめているのが目に入った。
肌寒くなり、しかもそろそろ空腹感を意識し始める時間帯だ。売れ筋も焼きドーナッツに戻りだすだろう。
(最後の便、ってルルに言っておいて正解だったわね)
接客の間に停留所に、なんて時間は作れそうにない。
一人、また一人とカウンター付近に集まり出した客たちを視界に入れつつ、瑞希は気合を入れるように口元の笑みを深くした。




