お代わりとそのあとで
「んっ、美味い! ライラ、料理上手だなぁ」
頰を大きく膨らませたディックに、ライラは顔をリンゴのように赤く染めてはにかんだ。
本当はもっと褒めてほしいだろうに、口に出せずに眉を下げる姿はなんともいじらしく、見た者の胸を強く打つ。
「あああああ! ライラが可愛いぃいいいっっ!!」
耳元にいるにも関わらず黄色い歓声を上げたルルに、瑞希は耳をキィンとさせながらも、まったくだと大きく頷いた。
ライラはきょとんと大きな目を瞬かせたけれど、そんな顔も可愛らしい。
瑞希の視線の端では、カイルとアーサーも神妙な顔をして首を縦に動かしていた。
一人ルルを認識できていないディックは大口でスパゲッティを頬張ってはまた美味いと繰り返すので、ライラの嬉しそうな顔はますます輝いていった。
「ディック、おかわりもあるわよー」
「ほんとにっ!? 食べる食べる!」
「お前、この後馬に乗ることを忘れてないか?」
食いついたディックに呆れた目を向けたアーサーは、そう言いながらも空になった自分の皿を瑞希に差し出していた。おかわりの要求である。
瑞希は仕方ないと言うように苦笑した。
「ソースは多めに作ってあるから、心配しなくても大丈夫よ」
「む……」
窘められたアーサーが、罰の悪そうな顔をする。
とん、と一度指先で肩を叩けば、察したルルが宙を飛んだ。
立ち上がった瑞希は何も言わずに二人から皿を受け取り、キッチンに向かうその背をルルも追った。
ルルが魔法で湯を沸かし、その中にパスタを入れて湯掻く。ソースももう一度火にかけて温まるのを待っていると、ルルがねえ、と声を上げた。
「ミズキ、豊穣祭にはディックも来るのよね?」
「らしいわね。でも訓練の最中だし、今みたいにのんびり過ごすのは厳しいかもしれないわ」
「何だかんだと真面目だものねぇ……」
夏を思い出すようなしみじみとした呟きに、瑞希も相槌を打つように小さく笑った。
「ああ、そうだ。国軍への納品の時、私とアーサーで行こうと思ってるの。ルルはカイルたちとお留守番、お願いできる?」
「それはいいけど……あの子たちは連れて行かないの?」
「あちらのお昼休みに合わせて届けることになってるのよ」
「あー……体力的に、厳しそうね……。うん、お留守番は任せて」
ルルが困り顔で笑う。
もし連れて行ったとしても、疲れてしょんぼりする双子の姿が容易に想像できてしまった。
茹で上がった麺の水気をしっかり切って、皿に乗せてミートソースをかける。
空になったフライパンはルルが指の一振りで洗ってくれた。
「ありがとう。……お待ち遠さま、スパゲッティのおかわり、できたわよ」
預かっていた皿をそれぞれに渡すと、双方向から感謝の言葉が送られる。
おかわりのスパゲッティもペロリと平らげてから、ディックは大きく手を振り、国軍と合流するために馬を駆っていった。




