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暑い日は

 午前中のしばらくは瑞希の予想通りハーブティーがよく売れたが、日が高くなるとゼリーが一気に売れ出した。

 焼きドーナッツと比べて応対の時間が短くなる分、カウンターの仕事も少し楽になる。

 そうしてできる接客の合間を使って、瑞希は焼きドーナッツの在庫を確認していた。


(うーん……。やっぱり暑いと焼きドーナッツはあんまり売れないわねぇ)


 のど飴や生姜糖は毎日同じ調子で売れるのだが、口内の水分を奪う焼きドーナッツは売れ行きが気候に左右されやすいのだ。売り出した日から様子を伺っていたが、暑い日は焼く個数を減らしてもいいかもしれない。


 残りの数をメモに控えて出入り口側に視線を移すと、サービスティーを配る双子の前には少し長めの列ができていた。


 今、カウンターには客が来ていない。来る気配もないことを確認して、瑞希は小さくルルに呼び掛けた。


「ルル、カイルたちの様子はどう?」

「忙しそうよ。おかわりって人が多いの」


 ちゃんと自分たちの水分補給もしている、とは言うけれど、それでも疲れが溜まってきているはずだ。

 時間を確認すれば、昼休みも程近い時間。最終便はまだ到着していないが、今以上の人数が押し寄せることはないだろう。


「ルル、二人に先に休憩って伝えてくれる?」

「それはいいけど……いいの?」

「どうせもうすぐお昼休みだもの、なんとかするわ。それに、お昼も一仕事あるんだもの。疲れ切ってたらできないでしょう?」


 料理も薬作りも、やろうと思えば瑞希一人でもできないことはない。

 けれど、それで肩を落とすのは双子だ。

 とはいえ、子供ながらに責任感の強い二人だから、ただ休んでと言ってもすんなりと頷かないことも瑞希はわかっている。


「そうね……ああ、そうだ。窓を開けて空気の入れ替えをしておいて、って言ってくれる?」


 些細なことではあるけれど、用事のついでなら二人も頷いてくれるだろう。幸いというのか、今日は暑いからちょうどいい。


「わかったわ」


 ルルは(はね)を翻して双子の許へと飛んでいった。


「ミズキ」


 入れ違いに来たアーサーは、話を聞いていたらしい。

 後悔は全くしていないけれどなんとなくむず痒くて苦笑いでごまかすと、仕方ないというような目で肩を竦められた。

 でも、何も言わないから、きっと不服はないのだろう。

 その通り、アーサーは瑞希を助ける姿勢を見せてくれた。


「出入口は俺が見るから、ミズキはこのままカウンター側を頼む」

「いいの? アーサーだってディックと手合わせするんでしょう?」


 二人の手合わせが決して手ぬるいものではないと瑞希も知っている。武術大会が始まる前、幾度となく見てきたのだから。


「このくらいで鈍るほど軟弱ではないさ」


 アーサーはこともなさげに言い切って、催促するように伸ばした手を動かした。

躊躇いがちに、瑞希がデキャンターを差し出す。

 アーサーは満足そうに目を細めて、宣言通り出入口へと足を向けた。

 その背を見送って、瑞希もあと少しと気合を入れなおした。

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