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手紙

 開店の準備を整えてしばらくすると、定期馬車が客たちを連れてくる声が聞こえてくる。それを合図に瑞希は停留所まで出た。

 すれ違う客たちと笑顔で挨拶を交わし、人波が途切れたところで御者に声をかける。


「おはようございます。すみません、いくつかお手紙をお願いしたいのですが、頼めますか?」

「おう、いいよ! 薬問屋にかい?」


 瑞希が国軍の依頼を引き受けたことは御者の耳にも届いているらしい。察しよく応じられて、瑞希は「それもです」と申し訳なさそうに頷いた。薬材の調達もあるが、手紙は薬問屋だけにではないのだ。


「実は、青果店や街の薬店にもお願いしたくて」


 御者は瞬き、ついで心配そうに瑞希を見遣った。


「もしかして、作るのが間に合わないとかかい?」


 豊穣祭まであと六日。つまり、国軍が訓練に来るのも六日後だ。

 確かに短い準備期間での大量注文ではあるが、《フェアリー・ファーマシー》は毎日の客数が多いこともあってストックを多めに作っているから、特別難しい依頼ではない。

 しかし薬を作っているのは、公には瑞希一人と思われている。だからこその御者の心配を、瑞希は有り難く思いながら首を横に振った。


「いえ、薬の方は問題ないんです。それとは別に差し入れを、と思いまして」

「差し入れ?」

「ええ、スポーツドリンクを。まだ昼は暑いですから」


 そう言うと、御者は合点がいったと闊達な笑みを浮かべた。


「ああ! なるほど、そりゃあいいね」


 動いた体に染みわたる、としみじみ御者が独り言ちた。

 馬車組合との定期購入の契約は満期を迎えたが、所属する御者たちの中には個人的に買い求めてくれている者が多くいる。目の前の彼もまた、そのうちの一人だ。

 しかし薬を作るのはどうにか出来ても、大量のスポーツドリンクまで作る余裕はさすがにない。だから街の薬売りたちに協力をお願いすることにしたのだ。


「多くて申し訳ないんですけど、お願いできますか?」

「おうよ、まかせとけ!」


 にっかりと御者が笑う。彼は荷台に誰もいなくなったことを確認して、手綱を握って街への道を引き返した。

 その影を少しの間見送って瑞希も店に戻ると、カウンターでアーサーがぎこちなくも忙しなく動いているのが目に入った。ショーケースとカウンターとをひたすら行き来しているから、焼きドーナッツを求める客が来店早々列を成したのだろう。

 アーサーは覚束ない手つきながらも懸命にトングを扱っているけれど、その間にも列は伸びていく。

 瑞希は足早にカウンターに入り、先頭の客の会計を済ませた。


「ありがとう、アーサー。交代するわ」

「ああ、頼む」


 ほっと安堵の色を見せて、アーサーが会計に移る。これには彼も手慣れたもので、商品の梱包も勘定も卒なく熟していった。

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