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挨拶

 ポトフも温まった頃、コンソメの香りに誘われるように双子がリビングに降りてきた。まだ眠そうに目を擦っていた二人は、アーサーの姿を認めるや否や顔を輝かせて彼の許へと走り寄る。


「パパっ、おかえりなさい!」

「おかえりーっ」

「ああ、ただいま。それと、おはよう」


 擽ったそうに肩を竦めるアーサーに、双子はあっ! と言う顔をして、それから改めて朝の挨拶を口にした。

 それにアーサーはもう一度「おはよう」と返し、キッチンの方を指し示す。


「ほら、ミズキとルルにも言っておいで」


 双子はまたはっとして、促されるままパタパタと軽い足音を立てて瑞希たちの許に駆け寄った。


「おはよう!」


 重なった二人の挨拶に、瑞希とルルは笑顔で応じる。


「おはよう、二人とも。カイル、今日は寝起きすっきりなのね?」

「階段降りてるときは、いつも通りぐらぐらしてたよ?」

「父さん見たら、一気に目が冴えちゃった」


 えへへ、と頬を掻いたカイルに、ルルとライラがきゃらきゃらと笑う。

 瑞希も小さく笑みを零していたが、すぐに大きく手拍子を打った。


「おしゃべりの続きは、ご飯を食べながらね。三人とも、今日もお手伝いよろしくね」


 瑞希の声に、子供たちの元気な返事がよく響いた。

 瑞希とルルで料理を盛り付け、カイルとライラは濡れ布巾を手にテーブルへ向かう。その足音に紛れて、小さく別の物音がアーサーの耳に届いた。

 視線だけを動かせば、真っ白毛玉が階段の一段一段を億劫そうに降りてきている。アーサーは苦笑して、その体を持ち上げた。


「今日一番の寝坊助はお前だな」


 腕の中で、小さな体がもぞもぞと動く。暖炉の前に下ろしてやると、モチはその場で丸まり、微睡みだした。一応はウサギのはずなのに、ちっともウサギらしくない。

 呆れたようにモチを見下ろしていると、不意に甘い香りがアーサーの鼻腔を擽った。


(? デザートも作っておいたのか?)


 瑞希はおやつ以外に食後のデザートも用意してくれることがあるが、朝食の時はカットフルーツやヨーグルトのことが多い。

 ひょっとして、これも昨夜作ったのだろうか。

 だとすると申し訳なくなるけれど、それでも嬉しい気持ちの方が勝って頬が緩んだ。

 そんなアーサーの前を、食器たちが素知らぬ顔で通り過ぎていく。言わずもがな、ルルの魔法だ。動くことで多少なりとも勢いがあるはずなのに、中身が零れることはない。

 あっという間に形を整えた食卓に着いて、全員でおなじみの挨拶を唱和した。


 アーサーがまず口を付けたのはトーストだ。こんがりと焼かれた食パンに、茶色いペーストが塗られている。甘い香りの正体だ。

 今並んでいるということは、デザートではない。

 ならばと真っ先に齧ってみると、口いっぱいにリンゴの香りが広がった。濃厚な、けれどくどくない甘み。リンゴだけではないコクはスパイスによるものだろうか。


「美味い……」


 思わず口から零れ出た言葉に、瑞希は満足そうに笑みを深めた。

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