たまには初心に
双子が歌う豊穣祭の歌を聞きながら、瑞希たちは洗い物をしていた。
ルルの小さな指が、指揮を執るように軽やかに動く。浮き上がった皿たちは踊るように水球の中に飛び込んでいき、汚れを落として瑞希とライラの許へとやってきた。それを二人で拭き上げながら、瑞希がちらとライラを見下ろす。
双子はいつも楽しそうに手伝いをしてくれるのだが、歌いながらだからか、今日のライラはいつにも増して楽しそうに見えた。
もう何回も繰り返し歌ってもらっているけれど、双子が歌っているからかちっとも飽きがこない。むしろもっと聞きたいと思ってしまうから、すっかり覚えた今でも家内に響くのは双子の歌声だけだった。
「こうなると、アーサーの歌も聞いてみたくなるわよねぇ」
不意に呟いたルルに、確かにと瑞希も同意する。言葉を紡ぐと素っ気ないことが多いけれど、男らしく低い声は不思議と甘やかな響きもしているから、きっと素敵な歌声になることだろう。
「でも、きっと簡単には頷いてくれないわ」
聞いている側が恥ずかしくなるようなことは躊躇いもなく口にするくせに、アーサーは変なところで恥ずかしがる。
それを知っているから、ルルも悩ましげに頷いた。
不思議なもので、聞けないとわかると余計に聞きたくなる。どうにかして聞けないだろうかと考えを巡らせていたルルが、はっと閃いたように手を打った。
「ライラがお願いしたら、頷いてくれないかしら」
名案と言わんばかりの声音に、名前を呼ばれたライラが歌を止めた。歌に夢中で、話を聞いていなかったらしい。
きょとんと見上げてくる無垢な瞳に、ルルはにっこりと微笑を浮かべた。
「何でもないのよ、気にしないで」
驚かせてごめんね、と小さな手が金色の頭を撫でる。
ライラはまだ不思議そうにしていたが、撫でられることが嬉しかったのかふにゃりと蕩けるような笑みを浮かべた。
それに釣られるように、瑞希も優しく目を細めてライラに言った。
「ライラ、今日もお手伝いありがとう。そろそろカイルも上がるだろうから、お着替え持っておいで」
ライラはこくんと頷いて、足取り軽く二階へと向かった。その背を見送ってから、瑞希が困ったように苦笑する。
「ライラをダシにしないの」
「ごめんなさぁい」
まったく反省の色が見受けられない謝罪に、まったく、と言いながら瑞希も笑う。
それからふと、聞き忘れていたことを思い出した。
「そういえば、ルルはどうする?」
「何が?」
「お風呂。私と入るか、ライラと入るか……一人でって選択肢もあるけど」
言いながらも、最後だけは気乗りしない様子だった。
その理由を察して、ルルは殊更に笑みを深める。
「ミズキは心配性ね」
笑い交じりの声に、自覚がある瑞希は困ったように眉を下げた。
それにルルはころりと柔らかな笑い声を零す。
「一人で入ってもいいけど、あんなに広いお風呂に一人はさすがに寂しいわ」
姉とはいえ、双子よりもはるかに小さいルルには、あの浴室も浴槽も広すぎる。魔法があるとはいえ、翅が濡れては飛ぶのもままならないのだ。
かといって、ライラと一緒に入るつもりはない。姉妹で入るのはもちろん楽しそうだけれど、せっかくの初一人風呂を邪魔するなんて野暮はしたくなかった。
「昔みたいに、ミズキと二人も懐かしくていいんじゃない?」
歌うように言うルルは、それが本心と伝わってくる楽しそうな笑みを浮かべていた。
「……ありがとう」
「あら、何が?」
あくまでも気づいていないふりをするルルに、何でもないと瑞希が笑顔で首を振る。
ふふふ、と。柔らかな笑い声がキッチンを満たした。




