ただいま
「さあ、ここがお家よ!」
帰ってきた我が家の前で大きく手を広げて見せる。子供たちは目を見開いて家を見上げていた。
「おっきい……」
「きれー……」
ぽかんと口を開けて立ち尽くすカイルとライラ。
本当にここ? くるりと振り返った子供たちにアーサーは頷き肯定した。
「ママ、すごい」
「母さん、オジョーサマってやつなの?」
まだ驚きの抜け切らない様子の二人に苦笑いして、まさかとお嬢様説を否定する。お嬢様だなんてとんでもない話だ。瑞希にはそもそも戸籍が無いのだから。
「このお家は、妖精のみんながお手入れしてくれたのよ」
「妖精?」
ぱっくりと子供たちの口がようやく閉じられる。その目は疑うように細められていた。
「妖精はお話の中にしかいないんだよ?」
「あら、本当に?」
少しだけ意地悪をして尋ね返す。カイルは戸惑っていたが、だって見たこと無い、ともごもご答えて頷いた。
それをふっと小さく笑って、くしゃりとカイルの頭を撫でる。
「じゃあ答え合わせをしましょうか」
にっこり笑ってカイルの背に手を回す。玄関へと促すと、ゆっくりと小さな足が動いた。
子供には重い木製の扉を開けて、入っておいでと手招きする。子供たちは躊躇ったが、アーサーが淀みない足取りで入って行くのに続いて恐る恐ると足を踏み入れた。
開いたままだった扉が見計らったように音を立てて閉じる。
「おかえりなさい!」
満面の笑みを浮かべる瑞希にライラもカイルもぱちくりと瞬いたが、すぐにじわじわと顔を赤らめて、嬉しそうに口元を緩めた。
「た、ただいま……」
「ただいま!」
口ごもりながらもちゃんと言う二人にもう一度おかえりなさいと返す。
ちゃんと言えたね、偉い偉い。二人を抱きしめながら頭を撫でていた瑞希が、不意にアーサーを仰いだ。
「ほら二人とも、アーサーにも、ね?」
子供達を促す瑞希にアーサーはぎょっと目を剥いたが、子供達は素直にアーサーに向き直り、期待に満ちた目を向けた。
「んと……おっ、おかえり!なさい!」
「パパも、おかえりなさいっ」
二人はキラキラとした目でアーサーの反応を待つ。アーサーはそれにたじろいだが、数秒も保たずに根負けして寡黙な口を開いた。
「……ただいま」
ようやく返した一言に、体当たりさながらに抱きついてきた子供たちを微塵も揺らがずに受け止める。どうしたらいいのかわからず、とりあえずとぽすぽす双子の頭を撫でるアーサーに、瑞希は笑いを堪えるのに必死だった。じろりと物言いたそうな目を向けられるが、それは煽る結果にしかならなかった。
「アーサーも、少しずつ慣れていかなきゃね……っ」
せり上がるものを必死に押し殺す瑞希を、アーサーは無言で睨むだけに留めた。




