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笑顔の下

「ルル、ライラ、聞こえる?」

「おーい!」


 まるですぐ隣にいるかのような声量で瑞希が問う。カイルはちょっと大きめに声を張った。

 一拍にも満たない間を開けて、湯面が小さな波紋を描く。それと同時に、二人の声が当然のように瑞希たちの許まで届けられた。


「ばっちり聞こえてるわよ!」

「ライラもー」


 きゃらきゃらと笑う明るい声に、それはよかったと瑞希はにっこり微笑んだ。

 食休みからしばらく、瑞希はカイルと一緒に浴室に来ていた。浴室にいると言っても、お風呂に入っているわけではない。二人とも服を着たまま、開け放った出入口に顔を向けていた。

 ルルとライラは、それぞれリビングとキッチンで二人の声が聞こえるかを確認している。

 地下と一階、離れた距離にありながら何故声が届くのかと言えば、ひとえにルルの魔法のおかげである。風に互いの声を乗せてもらうことで、離れていてもすぐ傍にいる時のように会話ができるのだ。


「ルル姉の魔法、いつも凄いね」

「あら、これくらい朝ご飯前よ。もっと凄い魔法だって使えるんだから!」


 エッヘン、と姿は見えないけれどルルが胸を張っている様子がありありと浮かぶ。

 けれど、カイルの「たとえば?」という問いには答えられないようで、自慢げな声音から一変、うーん、と考え込むような声が聞こえてきた。

 わかりやすい変化に、瑞希とカイルが顔だけで笑う。声を上げては聞かれてしまうから、二人とも声を抑えるのが大変だった。声が出せない分力の入った頬を揉みほぐして、瑞希がカイルに向き直る。


「カイル、お約束覚えてる?」

「うん。脱衣所のドアは開けておくこと、何かあったらすぐに呼ぶこと、お風呂ではしゃがないこと!」


 それは確かにリビングで言い聞かせたことだった。ちゃんと覚えてくれていたカイルに、正解と褒めながら頭を撫でる。

 それでも、瑞希はまだ不安を拭いきれずにいた。

 瑞希とて、一人でのお風呂が最初から上手くいくとは思っていない。利発な子とはいえ子供は子供、洗い残しや濯ぎ残しは想定している。

 それくらいはこれから練習を重ねていけば良いのだが、それよりも気がかりなのが安全面だ。

 なにせ、誰にも身近な入浴という行為は、思いの外危険が潜んでいる。

 例えば足を滑らせてしまったり、湯船で溺れてしまったり。声では判別しきれない危険がまだあるのだ。

 それでも不安を表情に出さないのは、親が不安な顔をしては、子供を不安にさせてしまう。

 だから、瑞希は笑顔の下に不安を押し隠すのだ。

 カイルが、小さな不安さえ抱くことのないように。

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