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 さて。瑞希とルルが食事の用意をしている間、いつもならアーサーが双子を見ていてくれるのだが、今日はその彼がいない。

 カイルとライラもそれを実感したようで、モチを構う表情は気のせいでなく沈んでいた。

 これで瑞希とルルがキッチンに入ってしまえば、双子はもっと寂しそうにするのだろう。

 二人は目を合わせ、互いに頷きあった。


「カイル、ライラ。今日は二人にもご飯のお手伝いしてほしいんだけど、お願いしてもいい?」


 あくまでもお願いの形で目の届く範囲に招くと、双子は素直に頷いた。最近は薬作りの手伝いを頼むことが多く、料理の手伝いは久しぶりだったのも理由の一つである。

 二人は指示するよりも早く手を洗いに走った。


 「モチはどうする? リビングで寝てる?」


 答えはないと知りながら尋ねると、ふわふわの体が甘えるように瑞希に擦り寄る。どうやら一緒にいたいようだ。

 それなら、とルルは指振り一つでモチを宙に浮かせ、その上にぽすんと腰を下ろした。

 そして双子が戻ってきて、瑞希を挟むようにキッチンに立つ。

 初めて一緒に料理をした時はまだ調理台と同じくらいの背だったのに、今は頭一つ以上抜き出ていて、感慨深いものを感じた。


「二人とも、背伸びたねぇ」


 しみじみとした呟きに、そうねぇとルルが優しく笑う。

 カイルとライラはそっくりの表情で互いを見た。


「そう、かなぁ?」

「さぁ? よくわからないや」


 そうは言うけれど、カイルの背はライラより少しだけ高くなっている。

 こちらは体格に恵まれている人が多いから、きっとカイルも大きくなるのだろう。


「ミズキなんてすぐに抜かされちゃうんじゃない?」

「でしょうねぇ。私ももう少し高くなりたかったわ」


 ころころと笑う母と姉に、カイルがくすぐったそうな笑い声を零す。


「ライラも大きくなる?」

「ええ、きっとなるわ」

「でも、そのためにはたくさんご飯食べなきゃね」


 食べなきゃ大きくなれないわよ〜、なんて煽るように発破をかけると、真に受けた二人は真剣な顔をして頷いた。


「じゃあ、そのためにもたくさん作りましょうか」


 にっこりと音頭を取って、瑞希が腕まくりする。それを双子も真似して、それぞれ野菜と包丁とを手に取った。

 カイルはタマネギ、ライラはニンジン。

 少し間は空いたけれど、忘れてしまうほどでもない。するすると手慣れた様子で皮を剥いていく手を確認して、瑞希はメインの肉に包丁を入れた。

 まずは細切りにして、あとはひたすら叩くだけ。広がってきたら集め直して、またひたすら叩く、叩く、叩く。単純な作業だからこそ体力気力が必要になる作業だ。

 腕を休める合間に双子の様子を横目に見れば、二人とも皮を剥き終わり切り始めている。

 ルルはといえば、カウンターの向こうでモチを浮かせながらスープ作りに勤しんでいた。

 指の動きに合わせて切られた食材が、鼻歌に合わせて踊るように鍋に飛び込んでいく。火にかけられた鍋の中では、玉杓子が一人でに動き、鍋底からしっかりと掻き回していた。


 「今日のスープはなぁに?」

 「クリームスープよ! あ、お肉ちょっと分けてもらってもいい?」

 「いいけど、まだ荒いわよ?」

 「大丈夫よ」


 言うが早いか、ルルの指がぴっと動いて細切れ肉を浮き上がらせる。それは鍋に入る前に宙に浮いた火を潜り、香ばしい匂いをさせて鍋へと飛び込んでいった。それをまた、玉杓子がかき混ぜる。

 あとは煮込むだけなのだろう。ルルが悪戯っぽく口角を上げて瑞希を見た。


 「……味見、する?」

 「ええ、是非」


 瑞希は擽ったそうに笑って、目の前で浮く小皿を手に取った。

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