なんだかんだで結局は
あの後ディックがまた街に向かうのを見送ってからも、瑞希たちは今日の営業に勤しんだ。
久々に大好きな兄貴分と触れ合えたからか双子の笑顔が割り増しになって、脂下がった顔の客が多かったのが印象的だった。
アーサーは相変わらず表情の薄い顔をしていたけれど、足取りがいつもより軽いように見えたとはルルの言だ。
それを裏付けるように、店が終わった後のアーサーは休憩もそこそこに外出の用意を始めた。
すると、ディックと出かけることは双子も知っていたはずなのに、いざ彼が身支度を始めると唇をくちばしのように尖らせる。いかにも拗ねていますといったその表情に、アーサーは困ったような嬉しいような、と情けない顔をしていた。
「あまり遅くならないようにするから」
そう言って双子の頭を撫でてやるけれど、二人の表情はなかなか晴れない。
幸せそうな困り顔に、ルルがだらしないわねぇと揶揄いを口にした。
「ほら、二人とも。アーサーがお出かけし辛いでしょう」
笑ってお見送りしてあげて、と瑞希が言うと、眉をしょんぼりと下げた双子は「だって……」と不満を口にした。
「父さんだけ兄ちゃんと一緒、ずるい……」
「ライラも行きたい……」
ぽそぽそ、と零れたそれは想像していたものとは違い、瑞希は豆鉄砲を食らった鳩のような顔をする。
聞こえてしまったアーサーは、脂下がっていた顔が一転して仏頂面に戻ってしまった。いや、いつもより輪をかけて表情が硬い。だというのに目だけは険しくて、瑞希は自分の失策を悟った。
アーサーと別れ難かったのではなく、二人っきりで遊ぶアーサーに焼きもちを妬いていたらしい。
判明した真実に、ルルがけたけたと腹を抱えて笑った。
「あの……飲みすぎないように、ね……?」
励ましの言葉が浮かばず、せめてと贈った忠告を、アーサーが聞き入れてくれるかは知らない。だが坐った目と声で気の乗らない返答を寄越されて、瑞希は心の中だけで「頑張って」と此処にいないディックを激励した。
「えーっと……ああ、そうだわ。夜食、夜食はどうする?」
「いや、いい。街で食べてくる。ああ、帰ったら今日は部屋で寝るから」
「そう。じゃあ飲み物は用意しておくから、寝る前に飲んでね」
「ああ、ありがとう」
幾分か和らいだ声で言われて、どういたしましてと瑞希が返す。それからあれこれと話したけれど、話がまとまってからも双子の顔は浮かないままだった。
それをアーサーは何とも言えない顔で見下ろして、やれやれと肩を竦める。
「……明日発つ前に寄るように言っておく」
誰にとは言わなかったが、察するのは容易だった。
ようやく双子の顔が少し上を向く。
きっと内心では苦虫を何匹も噛んだ思いをしているだろうに、アーサーはそれを噯にも出すことはなかった。それが功を奏したのか、カイルとライラはきゅうっと眉を八の字にして「早く帰ってきてね」と父の裾を摘まむ。
それだけで呆気なく口元が緩んでしまうのだから、まったく現金なものだと自分でも思う。
「行ってくる」
ぽふりと双子を撫でて、瑞希と視線を合わせて。そうしてアーサーが街へと足を向ける。
その背を見送ってから、瑞希たちも家の中へと入っていった。




