折って縫って
アーサーも手洗いを済ませ、モチは宙で遊ばせて五人がそれぞれ針を取る。
まずは手慣らしと切れ端を縫わせてみると、子供たちはまだ時間が経っていないからかすんなりと綺麗な波縫いを披露した。
アーサーはと言えば、料理は見たこともないと言っていたが、針仕事は見たことがあったらしい。一度見せただけで縫うだけは熟せるようになった。
男の手には些か小さい針が、意外な速さでガーゼを縫い合わせていく。誤って指を刺してしまうようなこともない。
これなら大丈夫だろう。
瑞希はさっそくガーゼを広げた。
まずは上中下に三つ折りにし、アイロンを当てて跡をつける。それから左右も三つ折りにして、また跡を付けた。
そうして九枚重ねになったガーゼの両端より内側を縫い付ける。
「端っこを縫うんじゃないのね」
「うん。この余地に紐を通すのよ」
言葉とともに瑞希が器用に紐を通して見せる。
そうして出来上がったガーゼマスクは瑞希には珍しくもない物だが、アーサーや子供たちの目には奇怪な物のように映るらしい。
「これ、どうやって使うの?」
「紐を耳に掛けるのよ」
これは言うより見せる方が早い。紐を手に取り、頭の後ろで結んでガーゼを口元に近づけた。苦しくない程度のところで蝶結びにする。
ゴム紐より着け心地は緩いが、これでも十分役割を果たしてくれるだろう。
「苦しくないのか?」
「もちろん。試してみる?」
マスクを外そうとすると、アーサーは慌てて首を横に振った。心なしか、目元が赤い。
やけに食い気味な反応に瑞希は首を傾げたが、アーサーが「自分で作ってみるから」と言葉を重ねたため、得心はいかないまでもマスクを外すのみに留めた。
とりあえず十枚、一人二枚を目標に作ろうと決めて、それぞれガーゼに針を通す。作り方さえわかれば、後は手を進めるだけ。
針にも慣れている瑞希もさることながら、アーサーも飄々とした顔で、けれど緻密な縫い目を作っていく。それに子供たちは負けじと真剣な顔で針を進めていった。
手間はかかるが作業自体は簡単なため、目標は十分ほどで達成される。
それでも子供たちには大仕事で、自分たちで作り上げたガーゼマスクには満足げな目が向けられた。
「先生、これで元気になるかな?」
「なるといいなぁ。辛いの、やだもん」
頷き合う弟妹に、ルルがにっこり笑顔になる。誇らしげなその顔に、瑞希とアーサーも口元に笑みを浮かべた。
あからさまな効果は見込めないだろうけれど、ガーゼマスクを受け取ったロバートがだらしなく顔を蕩かすだろう。
しかし数日後、二人の予想を超えて彼が咽び泣く姿を見ることになるとは、今の彼らには知る由もないことである。




