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青空教室in乗合馬車

 この街の乗り合い馬車は、田舎ということもあって大きなものではない。 定員は大きく見積もっても十人強。それでも本数が多いのか、すし詰め状態にまでなることはない。

 瑞希たちが乗り込んだ馬車は他の乗客もおらず、ゆったりと座れるだけのゆとりはあったのだが、瑞希もアーサーも子供たちを膝の上に乗せて座っていた。軽々と持ち上がってしまう小さな体に良い気はしなかったが、照れ臭そうにはにかむのを見てしまえばそんなものも吹っ飛んだ。


「ミズキの親戚の子かい?」


  馬車の運転手が問う。瑞希はいいえとそれを否定した。


「私の子供たちよ、可愛いでしょう?」


 ふふふ、と笑い声まで漏らして自慢気にする瑞希に運転手は虚を突かれた顔をしたが、すぐにそうかと闊達(かったつ)に笑った。カイルとライラは恥ずかしいのかもじもじと落ち着きを無くして、それを宥めるようにアーサーが無言だが頭を撫でた。


「あいつらがこのこと知ったらどんな顔をするか! きっとみっともなく泣き崩れるだろうよ!」

「うぇっ! もう、幸せ気分に水差さないでくださいよぉ……」


 嫌なことを思い出したと隠しもしない瑞希に運転手はまた笑ったが、瑞希にとっては笑い事ではない。嫌だわ、と溜息を漏らした瑞希を子供たちは不思議そうに見上げた。アーサーの方も見上げてみれば、彼も複雑そうな面持ちでいる。


「おっちゃん、アイツラって?」


 カイルが尋ねる。瑞希は狼狽(うろた)えて止めようとしたが、それよりも早く運転手は答えてしまった。


「お前らの母ちゃんは、それはもうモテモテでなぁ。街の若い奴らはこぞって言い寄ってんだよ」

「ミズキだもの、トーゼンよっ!」


 美人な母ちゃん持ってお前らは幸せモンだよ、と声高に笑い飛ばす運転手と、自分のことでもないのに高笑いするルルに、瑞希は恥ずかしいからもうやめてと顔を覆った。


「母さん、イイヨルってなぁに?」


 ことりとカイルが首を傾けた。可愛いし、何にしろ興味を持ってくれて嬉しいのに、素直に喜べないのはどうしてだろう。


「うぅ……アーサー……」


 お願い助けて、と瑞希が救いを求めて目を向ける。目がやけに水気を帯びているのは気のせいではないはずだ。

 アーサーは一瞬息を詰めたが、すぐにしどろもどろと助け舟を出すべく言葉を模索した。


「その……つまりだな、ミズキは人望が厚いが、しかしそれは男に限ったことではない…………と思う」

「最後で台無しねぇ」


 ていうかもっと言葉砕きなさいよ。ルルが冷静に突っ込む。瑞希もそれはフォローになってないと言いたかったが、子供たちの注意は逸れたので結果としては良いのだろうと渋々口を噤んだ。


「ジンボー? なにそれ?」

「わかんないよぅ……」


 頭の上に疑問符を飛ばすカイルはともかく、ライラは難しいと頼りない顔をした。

 どういうこと? と戻ってきてしまったお鉢に頭を抱えたくなるのを必死に堪える。


「みっ、みんなと仲良しってことよ……うん、仲良し……うん………」


 ものすごく無理のある言い方だと自覚している分、言葉の後半は蚊の鳴くような声になった。嘘を教えているわけではないが胸が痛い。

 しかし子供たちは瑞希の心中など知るはずも無く、母さん人気者! と嬉しそうにはしゃいだ。


「…………親って大変なのね……」


 何処か遠くを見る瑞希に、アーサーは何も言わずただその肩を叩いた。

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