薬とは
ロバートの症状悪化の原因は、薬の常用によって体が慣れてしまったことと、季節の変わり目で免疫力が低下したのだろうということで話はまとまった。
それなら薬を強くすれば良いと思われることも多いのだが、単純にそうできないのが薬の奥が深いところだ。
薬が強くなれば、その分体への負担も大きくなる。だというのに、負担が増強された分薬の効果が出るのかといえば、答えは否。改善がみられないことだって珍しくない。
「安全策としては、強度は今のままを維持して、材料や配合バランスを変えてみることを提案しますけど……」
しかしそれも、実際に服用してみなければ効果はわからない。
正直にそう答えた瑞希に、それでもいいとロバートは頭を下げた。よほど切羽詰まっているのだろう、彼が藁にも縋る思いでいる事は容易に察せられた。
大柄な体を小さくさせる彼に、何か力になれたらという思いは大きくなる。
考えてみます、と答えると、彼は嬉しそうに表情を緩めた。
「とりあえず、今日は今ある薬を貰えるか。いつものと、この点鼻薬も頼む」
「はい。おいくつですか?」
「とりあえず十個ずつで」
前向きな返答に安心したのか深く腰掛けたままのロバートに、カイルとライラが動き出した。
小さな背中を感謝の目で見送った彼から、「騒がせて悪かったな」と改めて詫びられる。それにいいえと微笑んで返すと、今度は罰が悪そうな顔をされ、ぶっきらぼうに薬代を突き出された。その目元はうっすらと色づいていて、彼らしい照れ隠しに瑞希はそっと口元を緩める。
「次はいつ頃時間が取れそうですか?」
「薬がなくなる頃には、と思っとるが……いつとは言い切れんな」
「じゃあ、もし来るのも難しい時は一度ご連絡ください。お届けしますから」
「……世話をかける」
難儀そうに溜息を吐いたロバートに、お互い様ですよと優しい目で言った。それから、もう戻っていいという言葉に甘えてカウンターに足を向ける。
カイルとライラは、自分たちで袋詰めまでしたらしい。力を入れすぎて縒れてしまった紙袋を大切そうに抱えてロバートの許へ急ぐ二人を微笑ましく見送った。
「さて。それじゃあ、アタシもお仕事頑張りますか、っと」
言い置いて、ルルは器用に人や店の間を縫って飛んでいく。商品の在庫状況を確認しているのだろう。
瑞希がカウンターに入ると、おかえりとアーサーに迎えられた。
「もういいのか?」
「今は、ね」
「……瑞希の仕事熱心さは、一種の病気だな」
アーサーに揶揄されて、瑞希は数度目を瞬かせ、肩を竦めて仄かに一笑した。
「仕方がないわ。こういう性分なのよ」
「開き直ったな」
アーサーはやれやれと嘆息し、無理はしないようにと釘を刺して、商品の補充に戻っていった。




