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ロバートの天敵


 (なんでこんなことに……?)


 引き攣った顔の瑞希を気にする様子はなく、というよりも、そんな余裕はないのだろう。ロバートは苦しそうにくしゃみや咳を繰り返していた。

 奥に移動しようかと提案もしてみたのだが、彼はあくまでも客として来店したらしく、頑として首を縦に振らなかった。ひとまずカウンターはアーサーに頼んだけれど、客の注意は完全にロバートに向いている。

 鼻が詰まっているのか必死に口呼吸している彼に、我に返った双子が心配そうにサービスティーを差し出した。


 「先生、大丈夫?」

 「風邪ひいちゃったの? のど飴いる?」


 喉に良いんだよ、とポケットから自分たち用ののど飴を取り出す双子に、苦しそうにしていたロバートの表情が少しだけ和らぐ。ありがとうな、と言う言葉の代わりに大きな手が二人の頭を撫でた。ベンチに腰を下ろし、喉も潤したロバートは、驚かせてすまなかったと申し訳なさそうな顔をしていた。


 「それで、いったいどうしたのよ?」


 ルルの言葉を瑞希が代弁する。通らない声でロバートが言うには、鼻炎が悪化したらしい。

 彼が長い間酷い鼻炎に悩まされてきたことは、瑞希とルルも知るところだ。なにせ、瑞希たちが彼と付き合うようになった理由がそれなのだから。

 しかし交流開始当初のロバートの症状はこれほど酷くはなかった。《フェアリー・ファーマシー》の薬を服用するようになってからは大分楽になったとも聞いていただけに、本当に鼻炎なのかと疑念を抱いてしまう。

 そんな心配を察したのだろう、ロバートはできる限りの検査もして確認済みだと咳込みながら自己申告した。


 「薬は効くの?」


 瑞希の問いに、頷きで以って答えられる。それならばと点鼻薬を差し出すと、ロバートはこれが頼みの綱と祈るように拝み、薬を点した。咳込む音と鼻をすする音は止まないが、薬を点してしばらくすると、やっと息ができたと涙に潤む目元を嬉しそうに拭った。


 「相変わらず、お前さんの薬は良く効くな」


 先ほどより心持ち聞き取りやすくなった気はするが、まだ鼻声は治りそうにない。げほんと咳払いしたロバートは、やっと楽になったと言うように大きく息を吐きだした。


 「いくらだ?」

 「六百デイルです」


 ロバートは「そこも相変わらずか」と苦笑いして、ズボンのポケットから硬貨を取り出した。

 点鼻薬は丸薬よりやや高めの値段設定なのだが、それでも彼に言わせれば安いらしい。もっと欲張ってもいいんじゃないかという言葉を空笑いで流して、受け取った代金をひとまずエプロンのポケットに突っ込んだ。


 「いつからこんなに?」

 「あー……夏の終わり、だったか。ようやく暑さが和らいだくらいの頃にぐずりだしてな。毎年そのくらいの時期から辛くなるんだが、今年は特にひどい」


 これまでは手持ちの薬で騙し騙しやってきたが、その薬が残り少なくなっていたこともあり診療所を出た。そしてその途端、酷かった症状がさらに悪化し、大慌てで店に駆け込んだということらしい。

 息もできないほどとなれば、それは必死にもなるだろう。大変ですね、と気休めにもならないだろう言葉に、ロバートは全くだとしみじみ肯定した。

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