珍客襲来
《フェアリー・ファーマシー》の陳列は時々変わる。開店当初は一部の商品が移動する程度だったのだが、アーサーが一緒に暮らすようになってからは棚も移動するようになった。
けれど、新商品の位置は基本的に決まっている。客の目が必ず一度は向く、出入り口に面向かいする棚だ。
今回そこに並んだのは、生姜糖と生姜ののど飴だった。
「今回のは、なんだか地味だねぇ」
言葉だけなら気落ちしたようにも聞こえるが、その口元は期待で緩やかな弧が描かれていた。
生姜糖の前には、好き嫌いが分かれるだろうというアーサーの意見を取り入れ、試食が小籠に盛って置いてある。その施策は正解で、食べてみた者には辛いと零す者が少なくなかった。しかし甘いものが得意でない人には好評で、中には間食の代替品として、あるいは、眠気覚ましにと手にする人もいた。
対して、のど飴は老若男女問わずによく売れた。この街は、何かしらの商売をしている人が多い。話すのが仕事、という人もいるようで、そういった人が四つ五つとのど飴の袋を持っていっては、カイルとライラが補充していた。
さて、焼きドーナッツはどこにあるのかといえば、カウンター横のショーケースの中に陳列されている。
ライラの意見を採用して一口大にしたそれは、客の注文を受けてから瑞希が専用の袋に入れる。少し手間のかかる方式だが、これは思いの外客受けが良かった。「自分で好きな味、欲しい数を選べる」ということが、買うこと以上の満足感を買い手に与えているらしい。
気軽に食べやすい大きさのため、試しにと食べてみて、追加で買いに戻ってくる客もいた。
そうしていつも以上にごった返す《フェアリー・ファーマシー》で、からんころんとドアベルが鳴る。
「いらっしゃいま……ひっ!?」
カイルは引き攣った声と同じ顔をして新しい客を見た。
口布で顔の大半を隠しているのに分かる親の仇と言わんばかりの険しい形相。真っ赤に充血した目と、すぐ近くにいなくとも聞こえてくるほど荒い息。
びっくりして固まってしまった子供たちに気遣う余裕はないらしく、でっぷりとした体格のその男は、人並みを掻き分けるようにして一路瑞希のいるカウンターを目指した。
楽しそうな客たちの声の中に、驚きの声が混じる。
何事かとアーサーが振り返った時には、珍客がカウンターに両手を叩きつけ身を乗り出しているところだった。
「あ、あの……?」
とりあえず落ち着いて、と相手を宥めようとした瑞希の声を、彼の悲痛な叫びが遮る。
「たしゅっ、たすけてくれぇ!」
鼻声と涙目のロバートの訴えに、どういうことなのかと瑞希は呆気にとられながら彼を見返した。




