三つの採決
「ママ、これなぁに?」
「生姜ののど飴よ。生姜糖を作る時にできるシロップを、さらに甘くして固めたの」
作り方はいたって簡単で、生姜シロップに蜂蜜と砂糖を加えて煮詰めて水分を飛ばし、固めただけ。
材料は生姜糖とほとんど変わらないが、こちらは子供たちの口にもあったようだ。生姜糖と聞いて警戒していたルルとライラの口元も、今では満足そうに綻んでいた。
一方で、アーサーは生姜糖からまだ興味が離れていなかったらしい。小さめのかけらを一枚取り上げ、徐に口に入れた。
砂糖の甘みと、生姜の風味。それらに続くように遅れてやってきた独特の辛みが、ぴりりと舌を刺激する。
「ああ、思ったよりも甘くないんだな。たしかに、子供には辛い」
「アーサーは平気そう?」
「問題ない。……が、これは試食を置いた方が良いだろうな。生姜の風味がはっきりしている分、大人でも好き嫌いが分かれそうだ」
なるほど。瑞希がまた新しくメモに書き入れた。
その間にも、アーサーは二枚目に手を伸ばしていく。生姜糖を食べ進める手は意外と早く、ざくざくと噛み砕く小気味良い音が絶え間なく続く。甘くないと言いながら、スパイシーな味は甘いもの好きな彼の好みにも合ったようだ。
のど飴は? と問えば、それも貰うと間を置かずに返される。渡すとすぐさま口に放り込んだそれに、アーサーが僅かに口角を上げた。生姜糖の時よりもわかりやすい反応だった。
「ああ、甘いな。生姜の風味は少し弱いが……これも健康に良いのか?」
「ええ。生姜は風邪予防に効くって言われてるし、蜂蜜はのどに良いらしいのよ」
ビタミンやミネラルも含んでいるとか何とか聞いた気もするが、残念ながら詳細は覚えていない。
瑞希の説明は曖昧さを残していたけれど、アーサーはそれ以上を聞いてくることはなかった。その代わりではないけれど、「のど飴が一番生活に取り入れやすい」という呟きを、瑞希は確かに聞き留めた。
焼きドーナッツと、生姜糖とのど飴。ダイエットと、風邪予防の健康促進食品。
「アイディアとしては、この三つで売り出そうと思うんだけど……大丈夫そう?」
瑞希の問いかけに、子供たちは頬を焼きドーナッツでぱんぱんに膨らませた顔で以って応えた。アーサーも、黙々と試作品を食べながら首肯している。
言葉よりもわかりやすい反応であっさりと下った採決に、瑞希は苦笑いを零しながら手元のメモに大きく丸を描いた。




