試食会
手紙を読み終わり、カイルとライラが二人で一足先に返事を書こうとペンを握る。ルルは手紙は書かないけれど、内容に悩む弟妹に題材を提供しているので実質三人からの手紙と言えるだろう。
三人で便箋と睨めっこしている間にも、キッチンからはスパイシーだったり甘やかだったりといろんな香りが漂ってきていて、どんなものが出てくるのか想像もつかない。
それでも食欲を刺激してくる香りであることは間違いなく、子供たちはきゅるきゅると小さな腹の虫が疼くのを感じていた。
「ルル姉、母さんがどんなの作ってるか知ってる?」
「知らないわ。体にやさしい食べ物、とは言ってたけど……」
ルルの目がキッチンを向く。瑞希は何かを炒めるような動作をしているが、何を炒めているのかはやはり見えなかった。
いい匂いは時間が経つにつれて強くなり、お腹空いたねぇ、と物悲しそうな顔をするカイルとライラの頭を小さな手がよしよしと交互に撫でる。二人の膝の上で丸まっているモチは、しゃくしゃくと気ままにおやつのハーブを食んでいるのが小憎らしかった。
と、そこに、瑞希がトレーを持ってようやくキッチンから出てきた。
三人の顔が期待で素早く上げられる。瑞希はそれに笑顔で応えた。
「お待たせー。まずは第一弾、サツマイモの焼きドーナッツです」
ことりとテーブルに置かれた皿に並んでいたのは、黄金色にこんがりと美味しそうな焼き目の付いた四人もよく知る菓子だった。いつもは丸い球状だが、これは輪状になっているし、砂糖がまぶされていないからか焼き目が目立っている。
これが新商品? と違和感を覚えたのは一瞬で、すぐに直前の言葉に意識が向いた。
「焼き、って言った? ドーナッツ、いつもは揚げてたわよね?」
「うん。でも、揚げちゃうと生地が油を吸っちゃうでしょう? 焼くとその分油をカットできるから、ダイエット中にも食べやすいと思うの」
油でべたつくこともないから、ラッピングすれば店での販売も十分可能。サツマイモの他にもリンゴやレモン、変わり種ならホウレンソウなどとバリエーションも持たせられる。
まずは一口。ぱくりと焼きドーナッツに噛り付く。揚げた物とは触感が違って、こちらの方が少し硬めだろうか。その分噛み応えもあるので、腹持ちもよさそうだ。
味はバターやサツマイモの素朴な風味と、花の蜜だろうか、優しい甘さが口いっぱいに広がる。
「甘さは控えめだが、十分美味しいな。甘いものが苦手な者にも好まれそうだ」
甘いカフェオレで口内を潤しながらも焼きドーナッツを食べ進める速度は変わらない。評価は悪くなさそうだ。
「糖分の摂りすぎは体に良くないからね。あくまでも体にやさしいお菓子、ってことで、今回はお砂糖を使わずに作ったの」
瑞希の説明にアーサーがなるほどと静かに頷く。口元は相変わらず忙しなく動いていた。




