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手を繋いで

 ライラとカイルは、予定を繰り上げてその日に退院した。まだ看護を必要とすることは大人達の誰もが理解していたが、子供たちはそれを拒んだ。

 もう置いてかれるのは嫌だと咽ぶ声に、それでもとは言えなかった。


「いいか? まずは飲みやすい果汁から始めて」

「慣れてきたらとろみをつけたものを小分けに飲ませて栄養補給、でしょ? ロバートったらもう十回目よ」


 いい加減耳たこだわ、と(おど)ける瑞希に、ロバートはぐっと言葉を詰まらせた。アーサーにしがみつく子供たちにクスクス笑われて、わざとらしい咳払いを一つ。


「……わかった、もう言わん。だが必ず週に一度は検診に来ること。いいな?」

「ええ」


 はっきりと受け答えた瑞希にロバートはようやく肩を降ろし、改めて子供たちに向き直った。二人の前にしゃがみ込んで、ぽんと頭に手を置いたかと思えばそのままぐしゃぐしゃと掻き混ぜるように撫で回す。カイルもライラも警戒心からか挙動不審になったが、アーサーも瑞希も笑顔で見守っているのを見てされるがままに大人しく受け入れた。


「ミズキもアーサーもいい奴らだ。幸せになるんだぞ」


 ありったけの慈しみを目に宿したロバートに、カイルはこっくりと首肯した。ライラはキョトンとして、ややあって小さな口をそっと開いた。


「ライラ、もう幸せだよ?」


 ママも、パパも、優しいの。

 ふにゃりとはにかんだその顔はほんのりと赤く色付いていた。庇護欲をそそる言葉と笑顔に釣られて相好を崩す。ルルはひとっ飛びでライラに抱きついた。突如として胸元に訪れた衝撃にライラは首を傾げていたが、そこに何も無いことを知ってさらに首を傾げた。


(帰ったらまた説明会ね……ご飯食べながらでいいかしら?)


 長老からの連絡はまだ無いが、里の総力を挙げると言っていたから遠くないうちに魔法の指輪は完成するだろう。それまでは見えなくて実感も湧かないだろうが瑞希が通訳すればいいし、見えなくてもできる交流もあるはずだ。

 見えるようになったらお祭り騒ぎになるだろうと、その光景を想像するのは難しくなかった。


「さあ、そろそろ帰りましょう。たくさん話したいことがあるの」


 ルルに手を伸ばせば、心得ていると何も言わずにルルが瑞希の肩に乗った。それを目で追ってからライラの手を握って、アーサーに目配せをすれば、アーサーはぎこちない動作でカイルの手を握った。

 二人がそれぞれに見上げてくるのに笑顔で返して、もう一度帰りましょう、と言うと子供たちは互いの手を握って大きく頷いた。


「じゃあロバート、また来週お邪魔します。医療費もその時支払うってことでいいかしら?」

「ああ、それまでに請求書を送ろう」


 その他にも二言三言言葉を交わして、五人は乗り合い馬車の停留所に向かって歩き出した。

 次第に小さくなっていく影をロバートは優しい目で見送った。

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