秋の訪れ
秋は、思いの外早い足取りでやってきた。
長かった夏がようやく終わったと思ったら、青く生い茂っていた山野があっという間に秋らしく色変わりした。吹き抜ける風は爽やかだけれど、しかしどこか無情を感じさせる。
日暮れの時間も短くなって、一人々は寒くなった、秋めいてきたと口々に語り、衣服を重ねる者も少なくなかった。
さて、秋風の吹く街のはずれ、薬屋。
夏には領主からも功労賞を与えられたこの店の店主瑞希や従業員でもある家族たちは、客で犇めく店内で今日も今日とて仕事に励んでいた。
出入り口では金髪と空色の瞳を持つ双子のカイルとライラが温かなハーブティーを客たちに振る舞い、一つまた一つと商品が減っていく陳列棚には黙々とアーサーがストックの物を補充していく。
瑞希はカウンターの向こうに立ち、穏やかな笑みとともに商品の説明や会計作業を熟している。その合間には、秋の商品展開について思考を巡らせていた。
暑さが和らいだことでスポーツドリンクの売れ行きは全盛期の半分にまで落ち、定期的に卸していた馬車組合からの購入契約も今月末で一時停止となる。
特産物として街で売り出されている炭酸ジュースも、そろそろ販売が終了されるだろう。
その代わりというわけではないが、またハーブティーなどを求める客が多くなってきていた。
季節の変わり目には体調を崩す人が増えるから、そろそろ風邪薬などの常備薬のストック数を増やした方がいいかもしれない。
けれどそれとは別に、このタイミングで何か新しい商品を売り出せないかと瑞希は考えていた。
「うーん……やっぱり寒い季節だから、温かいものがいいわよねぇ」
「ハーブティーのバリエーションを増やしてみるとか?」
「ハーブティーかぁ……」
困った時のハーブティー、というわけではないが、配合を変えて売り出した物も確かに売れる。
今までも季節に合わせて使うハーブを変えた物を売り出してきたが、どれも安定して売れていたから間違いのないアイディアだといえるだろう。
けれど、そればかりでは正直面白みに欠けると瑞希は思うのだ。
ううん、と頭を悩ませる瑞希に、周囲が生温い、けれど期待のこもった目を向ける。彼女の苦悩からどんな新商品が生まれるのかと、客たちはいつも楽しみにしているのだ。
その中で、カウンターに足を向ける影が一つあった。
「こんちはぁ」
「オーウェンさん、こんにちは」
薬壺を持って現れたオーウェンは、国軍に加入したディックに代わってダートンの腰痛の薬を買い付けに来てくれている新しい常連客だ。
カウンターに置かれた薬壺を確認して、代金を算出する。その金額を伝えれば、使い込まれた巾着袋からその通りの金額の貨幣が渡された。
それから紙袋を手渡して、ふと瑞希が思いついたまま口を開く。
「オーウェンさん、秋と言われて思い浮かべるものって何ですか?」
「秋、……っすか?」
きょとりと目を瞬かせたオーウェンに頷いて応えると、素直な彼は「そうっすねえ……」と顎に手を当てて考え出した。




