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ライラとカイル

「なんで……どうして怒らないんだよ……」

「カイル……?」


 わけわかんない、と首を振る男の子は混乱していた。どうしていいかわからなくなってしまった彼を女の子が心配そうに見上げる。女の子は頻りに瑞希と、カイルと呼んだ男の子を見比べていた。

 瑞希は今度は女の子と目を合わせた。


「あなたのお名前、教えてくれる?」

「ライラ。……ミズキ、怒ってるの?」

「怒ってないわ。だって二人とも、悪いことしてないじゃない」


 だから怒らないわ、と笑顔を浮かべる瑞希に、ライラはホッとしてはにかんだ。ふにゃりとしたライラの笑顔に瑞希はさらに笑みを深めた。


「ミズキ、ママって聞いた。ライラ、カイルと一緒がいい」


 カイルと一緒じゃなきゃ嫌だと(つたな)い言葉でも懸命に訴えるライラはとにかく離されることを恐れていた。二人にとって互いが支えなのだとよくわかる。わかってるわ、と瑞希が頷いて見せてもその不安が消えることは無い。

 カイルも、そしてライラも、自分たちの置かれている状況をよく理解していた。それがわかるから瑞希も慎重に言葉を選んでいた。


 辛かった、頑張った。


 そんなわかりきった言葉より、少しでも二人を安心させられる言葉がほしかった。


「お願い……っライラ、カイルと一緒がいい……!」

「ライラ………」


 ついに泣き出したライラにカイルは躊躇いがちに抱き締める。そして葛藤(かっとう)逡巡(しゅんじゅん)を繰り返して、ようやく瑞希と目を合わせた。答えは決まったようだ。

 決意を固めた目は力強く、瑞希を惹きつけてやまない。教師として多くの生徒を見守ってきた中でも数える程しか拝んだことのない、何よりも澄んだ瞳。

 瑞希はそっと手を伸ばした。ピクリと震えた小さな子供達はそれ以上は反応しなかった。


「大丈夫、よ。二人を離れ離れになんかしないわ」


 柔らかい髪をゆっくりと撫でる。拒まれないことに一安心して、そのまま頭を撫で続けた。

 ルルはとうとう我慢の限界を迎えたらしい。感極まった様子で涙ぐんで双子の頭を撫でている。


 足音とともにアーサーが背後に立つ。アーサーも、ぎこちない動作で膝を折って、恐る恐ると手を伸ばした。壊れ物を扱う時のように慎重に触れるアーサーは子供に慣れていないことが丸わかりだったが、彼なりに距離を縮めようとしていることもよく分かった。



 きゅっと、小さな手が瑞希とアーサーの服を頼りなく掴む。


「あり、がと……」

「助けてくれて……ありがとう」


 ぱっと手が離される。寂しく思ったが、それ以上に嬉しかった。


「これからよろしくね」


 そう言った途端、飛び込んできた子供たちを瑞希は驚きながらも受け止める。勢いを殺しきれずよろめいた体をアーサーが抱き留めた。


「一件落着、かな」


 (ひと)()ちて、ロバートは静かに部屋を去って行った。

 新しい家族が生まれた瞬間だった。

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