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意外な共通点

 夕暮れ前にダグラス領への帰路に着いたディックたちは、おそらく明日の夜か明後日の朝に帰宅するだろうとのことだった。

 なにせ王都から瑞希たちの暮らす街までは、日中の時間を丸々割いてもまだ足りない。白い道が道先を照らしてくれるとは言え、視界明瞭とは言い難く、御者や馬は当然疲弊する。それに、ただ乗って揺られているだけでも存外疲労は蓄積されるため、一昼夜を走り通すことは不可能なのだ。

 それらを考えると、ディックを主役とした宴が開かれるのは明後日以降の見通しになる。

 開かれない可能性を考えないあたり、自分も随分染まったものだと瑞希は一人擽ったい気持ちになった。

 しかし、今から一行を追いかけるという選択肢もあるにはあったが安全とは言い切れない。一晩宿をとって朝を待つのが無難だろう。


 「アーサー、貴方だけでも自宅に泊まったら? 私たちはどこかで宿を取るから」

 「勘弁してくれ」


 瑞希の無垢な提案に、アーサーは辟易した顔で拒んだ。宿よりよほど落ち着けると思うのだが、彼にはそうではないらしい。御免被る、と顰めっ面で重ねて嫌がる姿に、いったいどんな家なのか瑞希には想像もつかなかった。

 しかし、いつまでもここで立ち往生しているわけにはいかない。

 ひとまずジェラルドたちに挨拶して別れることを決めた。

 彼らは脂下がった顔でカイルとライラを構っていたが、瑞希たちに気付くと顔付きを変えて威儀を正す。

 凄まじい二人の変わり様に苦笑が溢れかけるのをなんとか堪え、会釈の合間に気を引き締めた。


 「せっかく可愛がって頂いてるのにすみません。もうそろそろお暇致します」

 「もう、か……しかし、もう陽も落ちた。このまま出立とは、危ういのではないか?」

 「はい。なので、今晩は何処かで宿を取るつもりです」


 武術大会明けは、宿の部屋も空いている可能性が高いらしい。四人で泊まるとなると多少窮屈かもしれないとアーサーは言うが、もともと家でも四人一つのベッドで寝ているのだ。そのくらい今更気にすることではない。


 「宿……ここからはちと遠いな」


 ジェラルドが名残惜しそうな声音で呟く。それでも瑞希たちに自宅に招こうとしないのは、アーサーの考えを汲んでのことなのだろう。

 しかし、彼はその変わり別の案を閃いたらしい。隣で沈黙を保っていたダグラス老を振り帰り、言い放つ。


 「お前の所に泊めてやれば良い。どうせ部屋は有り余っておろう」


 瑞希はびっくり(まなこ)でジェラルドを見た。彼はダグラス老と浅からぬ縁があるようだが、いくら親しくとも相手は領主である。それはあまりに不敬なのでは、と瑞希は肝が潰れる思いをしながら恐る恐るダグラス老を仰いだ。


 「あ、あの、ジェラルドさんも冗談での発言だと思いますし……」


 しどろもどろと言葉を紡ぐ瑞希に、ダグラスがほっほっ、と変わらない調子で独特の笑い声を上げる。気分を害してはいないらしいとわかって肩の力を抜いた瑞希に、一番人間の世情に疎いはずのルルが労るように小さな手で触れた。


 「何というか……さすがアーサーの父親、って感じよねぇ」

 「……それは、どういう意味だ?」


 しみじみと呟いたルルにアーサーが複雑な表情で突っ込む。ルルは自分で考えなさい、と素っ気なくあしらったけれど、傍で聞いていた瑞希は一緒に暮らすことになった時のことを思い出し、心の中でルルに強い同意を示していた。

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