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和気藹々……?

 時折言葉を交わしながらの会食の後、瑞希たちはダグラス老や子供たちと合流した。目が合うや否や元気いっぱいに駆け寄ってきたカイルとライラに、瑞希は堪えきれずたたらを踏んだ。勢いに倒れかけた体を、アーサーが後ろから抱き止めるようにして受け止める。


 「ありがとう」


 頭上にある彼の顔を見上げれば、何ということはないと首を振られる。

 瑞希が体勢を立て直すのを待って、アーサーは少し低くした声で双子を窘めた。


 「こら、危ないだろう」


 叱られた二人は「ごめんなさぁい」と謝りこそしたもののそっくりの顔をきらきらと輝かせていた。

 反省の色が薄いそれらに、やれやれとアーサーが嘆息する。

 くすくすと、堪えきれなかった笑い声が一つならず溢れた。それは瑞希やルルだけではない。数歩離れたところで様子を伺っていたジェラルドやダグラス老も口元を手で覆っていた。


 「いやはや、よもやアーサーのこんな姿を目にできるとは夢にも思わなんだ」

 「存外板についておられる所がまた、堪りませんなぁ」


 くつくつ、ほっほっ、とそれぞれ独特の笑い方をする年配者に、アーサーの口がへの字になる。相手の思う壺だとわかっているから何も言わないのだろうが、不機嫌であることは隠しきれていなかった。

 瑞希に抱きついていた双子はそんな父を不思議そうに見上げ、そのままの目で笑う年配者たちを見る。そっくりな顔立ちの、くりくりとした目を向けられて、二人の表情がへらりと脂下がった。

 おいでおいでと手招きされて、双子がとことこ歩いていく。

 温かなアイスブルーの目と不思議そうな空色の目が見合っている間に、ルルが瑞希とアーサーの前に飛んできた。


 「あのお爺さん、凄いのねぇ。人間の事業には詳しくないけど、偉い人っていうのはよくわかったわ」


 アーサーの目が続きを促すように動く。ルルは心得たと、二人がいなかった間のことを話して聞かせた。

 それによると、ダグラス老は子供たちの食事の都合をつけてくれただけでなく、城内のあちこちを自ら案内してくれたそうだ。

 しかも、普通なら入れないような所も、ダグラス老が一緒だったからか誰に差し止められることもなかったらしい。

 カイルもライラも好奇心の赴くまま、途中からはダグラス老を引っ張るように城内を見て回っていたそうだ。

 それはそれは、遊びたい盛りの子供二人に連れ回されてはさぞ疲れたことだろう。瑞希はもちろん、不機嫌だったアーサーさえ労りの目をダグラス老に向ける。

 二人の視線の先では、そっくりな顔立ちの、くりくりとした目を向けられて、へらりと相好を崩す好々爺の姿があった。


 「カイルとライラか、良い名だな。どれ、爺様と呼んでみよ」


 よしよしと双子の頭を優しく撫でながら強請(ねだ)るジェラルドに、カイルとライラがどうしようかと顔を見合わせる。


 「お爺さん、なの? 叔父さんじゃなくて?」


 尋ねたのはカイルだった。

 ジェラルドがもちろんだと大きく頷く。


 「父の父は、祖父だろう」

 「それは、そうだろうけど……ねぇ?」

 「うん……ちょっと、ね……」


 呼べないよね。双子は顔を見合わせ頷きあった。

 カイルにとって、そしてライラにとっても、お爺さんと言われて思い浮かべるのは目の前のダグラス老や、妖精の集落の長老だ。

 しかし目の前のジェラルドは、壮年を過ぎ皺も刻まれてきているものの、お爺さんとは認識し難い年の頃。

 悪意のない、むしろ心優しい双子の躊躇に、ダグラス老がほっほっ、と得意げな笑い声を響かせた。自分は呼ばれた、と勝ち誇った笑みを浮かべている。

 それと同時に、ジェラルドが悔しそうに歯軋りしてダグラス老を()め上げた。


 「くっ、髭か? 髭を生やせば爺様と呼んでくれるのか⁉︎」

 「え、えー……?」


 必死の形相をするジェラルドに、カイルが引き気味に顔を引き攣らせた。ライラはおろおろとしていて助け船を出せる状態ではなく、ダグラス老の笑い声がいっそう高くなる。

 収集のつかない惨状に、アーサーが頭痛を堪えるように眉間を揉みほぐし、そして双子の救出に踏み出した。


 「じじ様も爺馬鹿だけど、この二人も相当ね」


 ルルの呆れた呟きが、空しく瑞希の鼓膜を震わせた。

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