レストランにて
場所は変わって、城下のとある個室制レストランの一室。
瑞希はアーサーとともにジェラルドと対面していた。
カイルとライラはこの場にはいない。ダグラス老が、「爺と少し遊んでおくれ」と連れ出したのだ。
瑞希たちとダグラス老とは深い仲ではないが、見ず知らずの仲でもない。さりげなく瑞希たちの心身を慮ってくれる彼が何の考えも無しにそんな申し出をしてくるとは到底思えず、合流するまでに示し合わせがあったのだろうことは想像に難くなかった。
双子の方にはルルも同行してくれているため何の心配もしていないが、まだ自分のことが残っているから気など抜けない。予想だにしなかった急展開に瑞希の混乱は未だ解ける兆候はなかった。
テーブルを挟んで向かいに座るジェラルドは、今もにこにこと笑みを浮かべている。
改めて見た彼はプラチナブロンドの髪にアイスブルーの瞳と、アーサーとは似ても似つかない淡い色彩の持ち主だった。表情の変化だって豊かで、笑顔もわかりやすい。
けれど確かに血の繋がりがあるとわかるほど二人はよく似ていた。
「ご挨拶が遅れてすみません。ミズキ=アキヤマと申します」
「ミズキ=アキヤマ…………? ああ、きみが。評判は私も聞いているよ」
ジェラルドの笑みがますます興味深そうに深くなる。
瑞希は一瞬背筋に冷たいものを感じた。
この感覚には覚えがある。相手を探る目には興味関心以上の何かが込められていた。威圧感さえ覚えるようなそれに、瑞希は心中を噯気にも出さず笑顔で往なした。
なるほど、と納得げな声でジェラルドが頷く。
「手弱女かと思えば、なかなか肝の据わった女性のようだ。そこに惚れたか?」
最後の一言はアーサーに向けられたものだったが、言葉の方向は差して変わらなかった。
顔を赤らめた瑞希を眼差しで労わりながら、父上、とアーサーが苦言を呈する。ジェラルドは余裕綽々の笑みでアーサーの牽制を躱していた。
しかし、どうやら第一関門は突破できたらしい。瑞希に向けられる眼差しからは威圧感が失せてきた。
けれど、それだけだ。唇は緩やかな弧を描いているがアイスブルーの瞳は冷たく鋭く、ちらりとでも隙を見せた瞬間喉元に食いつかれるのではという危機感を抱かされる。
実直なアーサーとは違い、ずいぶんと腹芸の得意な人のようだ。
まだまだ気は抜けないと、瑞希は改めて気を引き締めてジェラルドと対峙した。
一瞬アイスブルーの目が眇められ、徐に彼の手が動く。食前酒の注がれた小さなワイングラスが瑞希に向けられた。
その意図を察して、相手より高くならないように気を付けながら瑞希もグラスを向け返す。
目礼だけの乾杯に、ジェラルドが満足そうに口角を上げた。ついで、今度はアーサーに顔が向く。
「アーサー。お前、やはり跡を継ぐか。彼女なら十分上手くお前を補佐できるだろう」
(跡を継ぐ……? お店か何かかしら)
確かにジェラルドもアーサーも、誰かの下で働くような気質ではない。何かしら家業があると言われた方が得心がいった。
しかし、アーサーは話を受けるつもりは毛頭ないらしい。
「父上、お戯れが過ぎますよ」
ぴしゃりと否を突きつけて、アーサーは挑発的な笑みを浮かべる父に一瞥もくれずにグラスを煽った。
取りつく島もない対応に、ジェラルドはワイングラスを弄びながら喉奥で笑う。
彼の目がまた瑞希に戻された。
「こやつの身の上は聞いているか?」
「いえ。詳しいことは何も……」
「ーー聞きたいか?」
ひくり、と喉が不自然に引き攣る。試されているとわかっていながら、瑞希はすぐに否定することができなかった。




