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おはよう

 子供たちが目を覚ましたのは、それから二日後のことだった。昼休みの一時閉店の寸前に速達の電報を受け取って、荷物を引っ掴んで店を飛び出した。午後臨時休業と殴り書きの貼り紙を残したのは、なけなしの理性の賜物(たまもの)だ。


「ロバート!!」


 乱暴に扉を開けて飛び込んできた人影に、検診をしていたロバートは文字通り飛び上がった。ベッドの上で身を寄せ合っていた子供たちはビクリと二人で寄り添っていた。


「は、早かったな…」


 動悸の激しい胸を押さえてロバートが口元を引き攣らせる。しかし誰もそんなことを気にしなかった。

 瑞希とルルは子供たちが本当に起きている事を確認して万歳三唱で喜んだ。今にも突進して抱き締めに行きそうな様子に、せめて瑞希だけでも止めようとさりげなく服を掴んでおく。しかし一人静かで落ち着いて見えるアーサーも、いつになく表情を和らげていた。

 ロバートはやれやれと呆れたように肩を竦めたが、その顔は優しい笑みを湛えていた。たった二日とはいえ、二人がどれほど子供たちの目覚めを焦がれていたのか知っている。まったくと口ではいいながら、その声音は優しかった。


「ほれ、さっき話したろう。女の方がミズキ、男の方がアーサーだ」

「ミズキ……アーサー?」


 髪の長い女の子が噛み締めるようにゆっくりと繰り返す。子供特有の高い声が舌足らずに口にするのを聞いて、瑞希とルルはやに崩れた。みっともないほど相好を崩したその様に、親バカシスコンここに極まれり、とは誰の言だったか。

 しかし女の子とは反対に、短髪の男の子は瑞希とアーサーを睨みつけた。顔を険しくさせて「嘘つき」と吐き捨てる。


「どうせ、あんたたちも僕たちを捨てるんだろ。……あいつら、みたいに」


 あいつら、というのが双子の肉親たちを指すことはすぐにわかった。

 ロバートがそれは違うと口を挟もうとするのを手で制して止める。瑞希は静かに子供たちを見つめていた。


「な、なんだよ……」


 睨んでいた子供がそれに怯む。ぎゅうっと片割れを守るように強く抱きしめて、騙されるものかと必死になって拒絶していた。


 「ミズキ……」


 ルルが頼りない声で瑞希を呼んだ。泣きそうなルルに安心してと柔らかい目を向ける。

 瑞希は二人ににっこりと笑いかけて、二人の前に膝をついた。近くなった目線に、なんでと男の子の目が揺らぐ。


 「はじめまして、私はミズキよ。あなたたちの名前を教えてくれる?」

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