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剣術競技

 昼食後、再び足を踏み入れた競技場は午前にも勝る人の歓声と熱気に包まれていた。馬術競技の時には多少なりとも空席もあったのに、今は座れない人たちが通路に溢れている。

 瑞希たちは食べ終えて早々戻ってきたので無事座席を確保できたが、それでも隣からの圧迫感は免れられなかった。しかしそれも、競技再開の鐘の音が響き渡れば意識の彼方に飛んでしまう。防具に身を包み、気合に満ちた顔で入場してきた参加者たちの姿を目にした途端、彼らに目が釘付けになった。

 それぞれの纏う防具が素材から色からと違うのは馬術競技の時にも思ったことだが、今回は彼らが腰に帯びる剣に目を引かれる。というのも、一言に剣といっても様式はまるで違うのだ。サーベルのように幅が細いものに、子供の胴体くらいはありそうな幅広のものもある。それでも共通しているのは、あくまでも競技ということですべて刃が潰されていることだった。

 武具の金属音を響かせながら参加者たちが整列し終わったところで、午前と同じ進行係が現れる。

 剣術競技はトーナメント形式で行われるらしい。しかし人数が人数なだけあって、序盤はいくつかのグループに分かれて、それぞれのグループで勝ち残った者同士でまたトーナメントを組むようだ。分け方はくじ引き。運も実力のうちということだろう。試合は一対一、先に相手に一太刀入れた者が勝者となる。

 神妙な顔をして男たちが木箱から紙を引いていくのを、瑞希たちも緊張した面持ちで見ていた。

 進行係の号令で、参加者たちがグループに分かれる。同じような体格が集まったグループもあれば、体格差の大きいグループもあった。兜で顔が隠れてしまっていることもあって瑞希たちはなかなかディックを見つけられないでいたが、その間にも協議は進み、試合が始まってしまう。すると参加者たちは当然激しく動くので、その中からたった一人を探すことはできなかった。


 「見つけられないのは残念だが、もう少し待てば一試合ずつ見れるんだ。それまで気長にまてばいい」


 そういうアーサーはディックが勝ち進むことを確信していた。

 そしてその通り、グループごとの試合が終わり勝者が集められた中に、瑞希たちはディックの姿を見つけ出した。この時点で残っているのは六人。一対一で戦うということは、一度でも勝てば本選出場の切符を手に入れることができるということだ。

 改めて面子を見直すと、グループ戦の勝者たちはディック以外は大男ばかりが集まっていた。その中で、防具を身に着けていない、おそらく審判役なのだろうひょろりとした痩せ型の男性が巻紙を片手におどおどしながら説明している。


 「お兄ちゃん、大丈夫かなぁ……」

 「怪我しちゃうんじゃ……」


 子供たちが心配そうに眉を下げていた。ディックが剣術の訓練に励む姿はこれまでに数えきれないほど見てきたが、それでも不安を抱いてしまうほどの体格差がある。瑞希たちははらはらとディックたちの試合を見つめた。

 ディックの相手は派手な甲冑に身を包んだ男性だった。たしか、馬術競技のレースに参加できていた者の一人だ。大柄な体格に見合った幅広の剣を腰に佩いている。

 実力者同士の対戦だと、近くの観客の熱のこもった声を聞いた。

 距離を取って見合う両者の間で、審判役が天に向かって真っすぐと手を上げる。それを合図に二人が剣を抜き、構えた。


 「――始めっ‼」


 鋭い声が飛ぶ。瞬間、剣と剣が合わさり大きな金属音が辺りに響いた。大男の上腕に赤子の頭くらいの力こぶが浮き上がる。受け止めるディックは細身ながらも一歩たりとて引くことはなく、むしろ勝気な笑みさえ浮かべていた。

 開始早々鬼気迫る気迫を見せつける両者に、観客からの声援が止まらない。それは子供たちも例外ではなく、序盤にできなかった分を取り戻すように両手を振り上げて全身でディックを応援していた。

 打ち合っては離れを幾度となく繰り返し、時間の経過とともに両者の額に滲む汗も量を増していく。

 それでも剣を合わせ続けていると、ある時ディックが相手の剣を押し返した。そのまま畳みかけるかと思いきや、彼は一足飛びに後ろへ飛んで距離を取る。判断を誤った対戦相手は大剣を空振りしてよろめいた。

 その瞬間、ディックが体のバネを利かせて相手の懐へ飛び込む。

 相手がディックの特攻に応戦しようとするが、もう遅い。

 ディックの剣が横薙ぎに振りぬかれる。刃が潰されていようと金属の塊であることには変わりなく、対戦相手が受けた衝撃の強さに体勢を崩した。剣を落とし、地面に膝をついた彼をディックが見下ろしている。


 「止めっ‼」


 競技場内にはディックと名前を呼ぶ歓声が響き渡る。拍手喝采の中、彼は勝ち取った本選出場の権利に喜びを噛み締めていた。

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