秘密の魔法
「妖精が見えるようになるって、どうやって?」
「ほっほっほ、代々の長老に口伝される魔法の中にあるのじゃよ」
ほっほといつもの読めない笑い声を漏らす長老に、ルルも聞いたことがなかったようで「そんなのがあるなんて聞いてない!」と目を釣り上げて詰め寄った。がっくんがっくんと力任せに振っている。強く揺さぶられて苦しいのか長老の顔は青ざめていた。気のせいでなければ口の端から泡が零れている。
このままでは老体に障ると瑞希がルルを摘まんで無理やり引き剥がす。ルルは離してと暴れていたが、瑞希はダメだよと離さなかった。
解放された長老は小さな体を丸めて何度も咳き込んでいた。苦しそうにしているのを見ていられなくて、丸まった背中を優しく撫でてやる。ありがとう、としばらくして咳が落ち着いた長老はやれやれとばかりに一息吐いた。
「長老、さっきの話は本当なんですか?」
「おお、本当だとも。ものっすごぉ~く疲れるし時間もかかるから、歴代の中にも使ったものはおらんだけじゃでの。しかし、祝いにこれほど適したものもあるまい?」
違うか? と悪戯っぽく見上げる長老に瑞希はその通りだと首を振った。本当にそんな魔法があるのなら、これ以上の物はない。
「ありがとう、長老!」
小さな体を両手で抱き上げて潰さないようにぎゅうっと抱き締めた。長老はいきなりのことに驚いていたけれど、思い通りに事が進んで至極満足そうに受け入れた。
「ミズキ?」
話の読めないアーサーが通訳を求める。瑞希の喜び様からして良いことがあったことはわかったが、何があったのだろう。
「長老がね、とっても素敵なプレゼントをくれるんだって!」
アーサーも子供たちもきっと喜ぶよ! とはしゃぐ瑞希にアーサーは曖昧に頷いて、窓辺にいるらしい長老へ目を向けた。その姿は見えないが、ほけほけと食えない老人の笑い声が聞こえた気がした。
長老が今いるのは窓辺ではなく瑞希の手の内であることをアーサーは知らない。




