家族の時間
アーサーは夕方前には帰ってきた。馬の背には瑞希が頼んだ買い出し品だけでなく、彼が選んだらしい細やかな土産物も積まれていた。きっと随分悩んで購入したのだろう。受け取った時の子供たちの笑顔に、アーサーは良かったと安堵の笑みを零していた。
それからキッチンに入ったアーサーは、喉が渇いていたのか手づから紅茶を淹れてリビングに戻ってきた。ミルクと砂糖は別にテーブルに並べられて、それぞれが思い思いに味を加工していく。中でもアーサーは傍目からはわからなかったが存外疲れているようで、たっぷりのミルクと砂糖を加えていたのを瑞希は見た。
「何処に行ってたの?」
そんなに疲れるなんて、と言外に尋ねてみても、アーサーは「ちょっとな」と言葉を濁らせるだけだった。その表情は言えなくて心苦しいというよりは、何か悪戯を仕掛けた時の子供を彷彿とさせる。
「なんだかわからないけど、楽しんでは来たみたいね」
ぽつりと呟いたルルの言葉に、らしいねと瑞希は相槌を打った。その時、視界の隅で今か今かとタイミングを見計らう双子の姿を捉えた。アーサーの喉の渇きが癒えたかとうずうずしながらも疲れていたらと気遣って口を手で押さえるその姿に、可愛らしいものを見たと瑞希とルルがほっこりする。優しい温もりに満ちた微笑みを湛える二人を訝しんだアーサーも、その視線の向かう先を目で追ってくすりと笑いを零した。
「二人は薬を作ったんだろう、どうだった?」
話を振られて、待っていましたとばかりに二人の目が輝く。わかりやすい顔の変化に、アーサーの目元がいっそう和らいだ。
カイルもライラも、よほど話がしたかったらしい。きゃあきゃあと子供特有の高い声で興奮をそのままに話し出して、二人がかりで伝えられるあれやこれやにアーサーは堪らず苦笑した。
「少し落ち着け。今日はもう出かけないから、ゆっくり聞かせてくれ」
宥めるようにかけられた言葉に、ライラが恥ずかしそうに頬を染める。カイルはだって、と少し不満そうに口を尖らせたが、うりうりと頰を柔く揉まれると仕方ないというように聞き入れた。
少しだけトーンの落ち着いた幼い声が、また楽しそうに今日あったことを話し出す。それに相槌を打ちつつ聞き役に徹するアーサーを見てから、瑞希は静かに立ち上がった。
アーサーがちらり、と目だけを向けてくる。瑞希は黙したままキッチンを指差した。ああ、と彼の顔に納得の色が浮かんだことを確認してから今度は双子を指差せば、心得たと小さく首肯を返される。
そうして背中に双子の楽しげな声を聞きながらキッチンに踏み込んだ瑞希は、今日の夕飯は何にしようかと考えを巡らせた。




