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質問タイム

 「アーサーがこんなにも自分のことを話してくれたの、初めてね」


 瑞希の言葉に、アーサーはそうだっただろうかと首を傾げた。どうやら本当に自覚がないらしいとわかるその反応に、くすくすと小さな笑いが零れる。


 「だってアーサーの話は、旅のことが多かったもの。それも知らないことを聞けるからとても楽しいけど、貴方のことを聞けるのは嬉しいわ」

 「そう……か?」


 実感なさそうに首を傾げるアーサーに、そうなのよと瑞希が肯定する。アーサーはそうかと呟いて、何となく気恥ずかしそうに表情を緩めた。


 「なら、ミズキは他にどんなことが知りたいと思う?」


 問われて、瑞希は回答に窮した。それを聞くの? と目で訴えるが、聞いてきた本人は質問を待ち遠しそうに期待の目を向けている。

 どうしたものかと、瑞希は頭を悩ませた。

 アーサーが何かしらの事情であまり自分のことを話せないということは、一緒に暮らすと決まった時に聞いている。だというのに質問を求められるとは思ってもみなくて、何を質問していいのかすら瑞希には判断がつかなかった。

 とりあえず、とまずは確認から始めてみる。


 「本当に、聞いてもいいの? これには触れないで、とかはある?」

 「もちろんだ。言えないことにはそう言うし、嘘を吐くつもりはない」


 きっぱりと言い切られて、それならいいのかもしれない、と瑞希の心が揺れる。聞いてみたいという気持ちは少なからずあるのだ。


 「じゃあ……好きな食べ物は?」

 「特別これ、という物はないが、食事なら食べ応えのあるものをよく選ぶな。軽食は……言うまでもないか」


 たしかに、アーサーの甘い物好きは今更聞くまでもない。

 瑞希は次の質問に移った。


 「嫌いな物とか、苦手な物は?」

 「特にない。周囲が煩かったから、直されたんだ」


 何とも曖昧な回答だが、アーサーらしいといえばそうなのだろう。家族ではなく周囲という言い方に瑞希は引っ掛かりを覚えたが、それについては聞いてもきっと答えが与えられることはないだろうと触れることはしなかった。まだ聞きたいことは他にもあるのだ。せっかくの機会を有効活用したいという気持ちもあった。


 「なら、アーサーの年齢は?」


 これは、以前から気になっていたことだ。自分の方がきっと年上なのだろうとは思っているが、実際の年齢を聞いたことはなかった。

 答えてくれるだろうかとドキドキしていると、アーサーは「二十六」とあっさりその回答を口にした。

 二十六ーー瑞希が今年で三十一になるから、彼とは五歳差だ。それが大きいのか小さいのかはわからないが、離れすぎてはいないことに安堵を覚えた。が、それと同時に今度は別の疑問が頭に浮かぶ。


 「話を聞く限りだと、結構長い間旅をしてるのよね? いくつの時に旅に出たの?」

 「たしか…………十七か十八くらいだったか? 二十にはなってなかったはずだ」

 「じゅっ……そんなに若い時から⁉︎」


 瑞希は仰天した。たとえ十八で旅に出たとしても、もう八年も旅をしていることになる。一箇所に留まるならまだしも各地を転々としてきたことを考えると、その苦労は計り知れない。


 「アーサーは凄いわね……」


 もうそれ以外に言葉が浮かばなかった。

 感心しきりに息を吐く瑞希に、アーサーが眉尻を下げた困り顔で頬を掻く。


 「何だかんだと援助や伝手があったから、そんな大したことではないさ」


 大したことではないなんて、そんなはずはないと瑞希は知っている。誰かからの援助も伝手も、何の努力もなしに得られるはずはない。それは瑞希自身この世界に来てから痛感したことだ。

 アーサーは、謙遜するということはほとんどない。言葉少なに、けれど真っ直ぐに物を言う。時折遠回しに言おうとすることはあっても、結局は歯に衣を着せきれず徒労に終わる。

 そんな気質のアーサーが言う言葉だからこそ、瑞希には殊更印象的に聞こえた。どれだけの年月が経っても、支えてくれる人がいることを忘れてはいけない。そう言われている気がした。

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