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珍しい来訪客

「ミズキミズキ、雑巾ちょうだい! あの子達のお部屋はアタシが綺麗にするの!」

「あれ、風はもうおしまい? 早いね。はい、ルルの分。広いところは私がやるから、ルルは手の届かないところをやってくれる?」

「まっかせて!」


 ぽん! と胸を叩いてルルは天井に向かって飛んだ。

 ルルの小さな手に合わせたサイズの雑巾は細かなところを拭くのに適しているが、その分広い部屋を掃除するには時間がかかる。瑞希は小柄で背も高くないから二人で掃除すると一番早く、綺麗になるのだ。


 窓の上の(さん)だとかはルルに任せて瑞希は壁や床を乾拭きする。窓から吹き込む風が上気した肌を優しく冷やして気持ちがいい。猫のように目を細めていると、窓辺にひょっこりと人影が現れた。


「おお? ミズキにルル、二人して何しとるんじゃ?」

「長老!」


 やってきた小さな客人は集落の長老だった。滅多に集落から出ない長老が瑞希の家とはいえ人里に降りてくるのは珍しい。

 思わず声を上げた瑞希に、どうかしたのかとアーサーが顔を出した。見慣れない人間におやと長老は眉を上げる。


「ミズキ、どうかしたのか?」

「ああ、妖精の集落のね、長老が来たのよ。滅多に来ないからびっくりしちゃって。……長老。彼はアーサー、今日から一緒に住むことになりました」

「ほう! ワシを紹介するということは、もしや彼も妖精が見えるのかの?」

「いいえ、でも話はしてあります。信じてくれて……そうだ。あと二人、子供も家族になるんですよ。今は事情があって預けていますが、きっとルルと同じくらいの年頃です」


 ルルと同じくらいの年頃と聞いて長老は嬉しそうに(しわ)くちゃの顔に笑い皺を刻んだ。にこにこしてそれはいいと何度も口ずさんだ。


「ずいぶん賑やかになったのう、良いことじゃ。ああ、祝い事には贈り物をせんとな、何がいいか……」

「長老、長老。気が早いですよ。それにこれ以上して頂くのは申し訳ないです」


 孫にプレゼントを買ってやるおじいちゃんさながらの長老に瑞希は苦笑した。見た目としては間違っていないが、子煩悩だけでなく孫煩悩まで現れては子供たちの部屋はプレゼントで溢れかえってしまう。いくら広いこの家でも物には限度があるのだ。

 しかしと何度も食い下がる長老をなんとか押し留める。長老はむむむと唸り声を上げた。


「なあミズキ、少しだけ、少しだけなら……」

「だーめです! そしたら他のみんなまで同じこと言い出しそうですもん、受け取りません!」

「ぐぬぅ……」


 これだけは譲れない! と言い張る瑞希に長老は歯軋(はぎし)りしたが、ふとあることを思いついてにやりと笑った。

 これならば受け取るだろう、そんな確信が長老にはあった。


「いや、子供たちと、お前さんたち二人にイイモノを贈ろう。お前さんたちも気に入るはずじゃ」

「長老、グレードアップしてますよ。贈り物は受け取れませんって……」

「妖精が見えるようになる、と言っても?」


 瑞希の言葉に被せるように続ければ、瑞希はピタリと口を(つぐ)んだ。それを見て、狙い通りと長老はこっそりほくそ笑む。 瑞希は長老の言葉に揺れていた。

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