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カイルの二択

 祝賀会から数日経った、《フェアリー・ファーマシー》の定休日。その朝食の席で、トーストを齧っていたアーサーが思い出したように声を発した。


 「ミズキ、今日は昼から少し出てくる。街にも寄るつもりだが、何か要り用な物はあるか?」

 「え? うーん……今はパッと思い浮かばないわね。後で書き出して渡していい?」

 「わかった。馬で行くから多くても問題ない」


 そう付け加えてまたトーストに齧り付くアーサーに、カイルがじいっと物言いたげな目を向ける。それに気づいたアーサーだったが、何を言いたいのかまでは分からず戸惑いに目を揺らした。


 「どうかしたのか?」

 「お出かけ、オレも一緒に行っちゃダメ?」


 控えめに上目遣いで問うカイルに、アーサーは答えかけ、しかし慌ててその口を閉ざした。しどろもどろになるアーサーの珍しい様子に、瑞希たちも思わず食べる手を止めて成り行きを見た。


 「あー……その、今日はだめだ。一緒に出かけるのはまた今度にしよう」

 「えー。どうしてもだめぇ?」


 おねだりするように言い縋るカイルに、アーサーの内心が揺れているのは明らかだった。きっとアーサーも、少なからずカイルを連れて行きたい気持ちがあるのだろう。けれどそれでも頷かないということは、何か理由があるに違いない。

 そこまでを見て取った瑞希が、それならと助け舟を出す。


 「カイル、お出かけするの? 今日はお薬たくさん作りたいから、お手伝いをお願いしたかったんだけどなぁ……」

 「えっ?」


 アーサーは僅かに目を見開き瑞希を見た。

 ルルも瑞希に目を向け、すぐにその意図を察して沈黙を保つ。

 しかしそうとは知らないカイルはわかりやすく反応を示し、狼狽えた。お手伝いに心惹かれたのは間違いない。けれど決定打にはならなかったらしい。お出かけかお手伝いかと迷う気持ちを表すように、カイルの青い目がアーサーと瑞希とを行ったり来たりした。

 もう一押しか、と瑞希が推測したところで、ライラが口を開く。


 「ママ、ライラ、お手伝いするよ?」

 「あら、本当? 嬉しいわ、ありがとう。でもね、今日は本当にたくさん作るのよ」


 私たちだけだときっと大変だわ、と溜息を吐きながら瑞希が頰に手を添える。

 きゅうっ、とカイルの眉が八の字になった。


 「母さん、そんなに作るの?」

 「ええ。武術大会が近づいていて、たくさん売れてるから。ディックの分も確保しておきたいし、作れる時に作っておきたいの」


 その言葉に嘘はない。時期と受賞が重なって、《フェアリー・ファーマシー》は開店からこれまでの中で一番の繁忙期を迎えている。スポーツドリンクはもちろん、薬だって今まで以上によく売れているとカイルも勿論知っていた。

 ぐらぐらと、カイルの中で天秤が揺れ動く。カイルの目は相変わらず右往左往としているものの、瑞希に向けられる時間がやや長くなっていた。

 そこに、瑞希が王手をかける。

 

 「……今日中に作れるかしら」


 物憂げな瑞希の呟きで、勝敗は決まった。


 「…………大丈夫だよ。オレもお手伝いするから」

 「いいの?」

 「うん。お出かけは、また今度にする」


 いいでしょ? とカイルが振り返り尋ねると、アーサーは勿論だと目元を柔らかくして大きく頷いた。それをしかと認めて、「だから今日はお手伝い!」とカイルがにっこり笑う。

 瑞希もふわりと優しい笑みを浮かべた。


 「ありがとう。すっごく助かるわ」


 感謝と謝罪を込めて頭を撫でてやると、カイルが嬉しそうに顔を綻ばせる。

 二人のやり取りを微笑ましく見守りながら、アーサーは黙礼し瑞希に感謝の意を示した。

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