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双方向

 「今朝ぶりだねぇ、二人とも。今日も一日お手伝いしたんだろう? 頑張ったね、お疲れ様」


 誉め言葉とともに優しく頭を撫でられて、双子の目が子猫のように細くなる。三方向から聞こえた悔しそうな歯ぎしりの音には大人らしく聞かなかったふりをして、瑞希は一歩マリッサの方へと進み出た。


 「あの、マリッサさん。私たち、ここに連れられてきたのはマリッサさんの手配だと伺っているのですが……」

 「ああ、そうだよ。今朝言っただろう、覚悟しておきなさい、と」


 それは確かに覚えがあるが、それとこれと一体どんな関係があるというのか。

 困惑顔の瑞希に、マリッサは呆れ交じりに小さく溜息を吐いた。


 「これはね、あたしたちから薬屋あんたたち《フェアリー・ファーマシー》へのお礼も込めた祝賀会だよ。ミズキはいっつもあたしらに世話になってると言うけれど、そう思ってるのはあんただけじゃないんだよ。あたしらだってあんたの世話になってるんだからね」


 感謝の気持ちくらいは察しておくれよ、と苦笑いを零しつつ種明かししたマリッサに、瑞希は今日一番の驚きに体も思考も硬直させた。


 祝賀会? 誰の? 私たちの?


 脳内で反芻してみるけれど、何度繰り返しても理解が追い付かない。

 そんな瑞希にマリッサがバシンと喝を入れた。

 不意を突いての強い刺激に、思わず瑞希が飛び上がる。バランスを崩してよろめいた体を、アーサーとディックが抱き留めて支えた。慌てて駆け寄ってくる双子を大丈夫だと肩を叩き、少し早くなった拍動を深呼吸して落ち付けようと試みる。

 その間にも、男二人とマリッサの対峙は続いていた。


 「気持ちはわからないでもないが、もう少し加減してくれ」

 「そうだよ、マリッサばあさん。ミズキはか弱いんだから、手荒な真似はしないでよ」

 「喧しいよ、若造ども。あんたたちも一発食らっておくかい?」


 手のひらを大きく開いてじろりと睨む老婆の気迫に、体格のいい青年が二人してたじろいだ。ルルはそれを冷めた目で見遣るけれど、これは仕方のないことだろうと瑞希は同情し、せめてと双子の目元をそっと隠した。


 「おいおいマリッサ、せっかくの祝いの席に、小言はいらんだろう。今日の主役はミズキたちなんだ、早く主賓席に案内してやらないか」

 「……わかってるよ。ほらおいで、あんたたちの席は用意してあるんだ」


 マリッサはそう言うと、広場中の人に聞こえるくらい大きく声を張り上げた。


 「ほら、あんたたち! 今日の主役の到着だよ!」


 瞬間、無数の人の目が瑞希たちに向けられた。それと同時に、凄まじい音量の拍手と歓声が響き渡る。

 気圧されて後ずさった双子を安心させるように、ルルが二人の間に飛んで「大丈夫よ」と声をかけた。


 「ほら、ちゃんと見て。お店で会う人ばかりでしょう。それに、みんな笑ってる。ここにいる人たちはね、全員、ミズキやあなたたちのことが大好きな人たちなのよ」


  だから、安心して笑っていなさい。

 見た目よりも大人びた慈愛の笑みを浮かべてルルが言い聞かせる。

 双子は躊躇いがちに頷いて、恐る恐ると瑞希の背後から出ていった。

 観衆は、自分たちの知る《フェアリー・ファーマシー》の店員全員の姿を確認すると一層歓声を大きくした。

 向けられる圧倒的な好意に、おどおどとしていた双子がついにふにゃりとはにかむ。

 多くの拍手と歓声に囲まれながら、瑞希たちは案内されるまま主賓席と呼ばれた広場中央のテーブルに着いたのだった。

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