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お祭り騒ぎ

 そうして連行されてきた馴染みの街は、夕暮れ時だというのに何故かお祭りムードに包まれていた。馬車が通る石畳の街道は賑わい、道を行く人々は瑞希たちに気づいては歓迎するように手を振ってくる。それは町の中心部に行くほど顕著になっていって、広場の手前あたりからは近場の店が協力し合い、人々に料理を振舞っていた。


 「なぁに、今日はお祭りの日だったの?」


 警戒して損した、とルルが肩透かしを食らったような声で言った。しかし記憶を手繰ってみても、そんな話を聞いた覚えはない。確認するようにアーサーやディックに目配せしてみたが、彼らも同じようで戸惑いの強い表情で首を振っていた。


 「おい、これはどういうことなんだ?」


 アーサーが傍らに座る一人に尋ねる。尋ねられた方はいたずらが成功した子供のような無邪気な笑みを浮かべて、「お祝いさ!」と楽しげに言った。


 「何か街を挙げてお祝いするようなことがあったんですか?」


 今度は瑞希が尋ねた。しかし、彼はそれにきょとりと瞬くだけで答えない。何かおかしなことを聞いただろうかと思っていると、彼はいくらかの逡巡を繰り返したのち、「詳しいことはすぐにわかるよ」とだけ言ってだんまりを決め込んだ。

 そして、いよいよ広場に入り込む。入り口付近で止められた馬車から降りた瑞希は自分の目を疑った。

 店舗を構えるより以前に瑞希も通ったその場所は、日が沈みきるまでは露天商のテントが立ち並んでいることがほとんどだというのに、今日はそれらが一つも立っていなかった。代わりに広場を埋め尽くすようにテーブルやイスがずらりと並び、飲食する人々が賑やかに騒いでいる。


 「おお、やっと来たか!」


 ふと、人垣の向こうから声がかかる。人の波間を泳ぐようにして現れたのはロバートだった。たっぷりとした髭を撫でつつ「どうだ、驚いたか?」と得意げな笑みを向けられて、カイルとライラは親しくしている主治医に会えて嬉しそうにはにかんでいたが、大人組は揃ってぽかんと口を開け放心した。

 そんな三人の呆けた様子に、彼は双子の頭を掻い繰り撫でながらもしてやったりと満足そうに口角を上げる。どうやら彼もこのお祭り騒ぎに一枚噛んでいるらしい。

 しかし、そんな彼に後ろから何か仕掛ける人影があった。


 「なんでアンタが威張ってんだい」


 厳しい物言いでロバートの巨体を押しのけて、聞き覚えのある声の主ががひょっこりと顔を覗かせる。マリッサだ。


 「おばあちゃん!」


 ライラとカイルの声が重なる。マリッサはしわくちゃの顔にさらに笑い皺を刻んで、おいでおいでと双子を手招きした。

 呼ばれるまま、二人がほとほとと彼女に歩み寄る。

 ロバートは恨めしそうな目でマリッサを見ていたが、彼女はそんなものどこ吹く風というようにほけほけとした笑みを浮かべていた。

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