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迎える準備

 ひらりとルルが二人の間を舞うように飛んだ。


「さあ、難しい話はこれで終わりでしょ。あの子達を迎える準備をしなくちゃ!」


 一日も早く一緒に暮らすのだと今からはしゃぐルルは非常に愛らしい。まずは掃除をしなきゃと張り切って二階に飛んでいった小さな影を微笑ましく見送って、瑞希はグラスを片付けた。


「個人部屋は二階にしようと思うの。今ルルが先にいったから、私たちも行きましょ」

「わかった。荷物はまだ置いたままでいいか?」

「うん、配置を変えるかもしれないでしょ? 明日もお見舞いと、ついでに買い物にも行きたいから、その準備もしなきゃね」


 子供たちの着替えも用意しないといけないし、やることは山ほどある。明日はいつもより早く店を閉めることを決めて二階へ続く階段を上がった。


 一階よりは狭いそこは、廊下を挟んで向かい合わせに扉が並んでいた。部屋数は六つ。そのうち実際に使えるのは手前の四部屋だけで、奥の二部屋は物置ーー在庫や薬草を置いているのだと説明した。

 広さの割りに少ない部屋数だがドアとドアの間隔は広い。だからなのだとすぐに理解した。


「ずいぶん広いが……ずっとここでルルと暮らしていたのか?」

「そうだよ。下でお店を始める前はもっとがらんとしてたから、これでも大分マシになったの」


 軽く笑う瑞希には寂しさは伺えない。それにアーサーはほっとした。


「ここが私の部屋で、アーサーにはそのお向かいの部屋。子供たちは私たちの隣の部屋を一つずつね」


 ここ、と指差された瑞希の部屋以外はドアが全開にされていて、覗き込むと窓も同じく全開にされていた。空気を入れ替える為なのだと遅れて知った。

 部屋の中ではくるくると風が弱く渦を巻いていた。窓を開けているとはいえ今日は風の強い日でもなかったはずだと食い違う記憶にアーサーが眉を上げる。ルルの魔法だよ、と瑞希に教えられてアーサーはようやく合点がいったと頷いた。


「あれは何をしているんだ?」

「掃除よ。ああやって風で(ほこり)を一纏めにしてるの。乾拭きが終われば掃除も終わりね」

「手際が良いな。今までも?」

「ええ。もしかしたらお客さんが来るかもしれないから」


 無論薬屋へのではない客のことだが、その可能性が低いことはここに住む瑞希自身がよく知っていた。それでも旅の人が宿を求めてやって来るかもしれないからと簡単な手入れをしてきたが、今回はそれが功を奏した。たった三部屋だ。広いとはいえ簡単な作業、すぐに終わるだろう。


「アーサーも長旅で疲れてるでしょう? 私の部屋でよかったら休んでて。あ、それともお風呂入る?」


 お風呂は下なんだけど、と申し訳なさそうにする瑞希を断って、世話になるのだからと手伝いを申し出る。


「旅はいつものことだし慣れている。それに、二人でやった方が早く終わるだろう」

「それはそうだけど、本当にいいの?」

「ああ」


 さあ、と手を差し出すアーサーに瑞希は気が引けたが、押しに負けてそろそろと一枚を渡した。

 疲れた体でさらに疲れることをするのに、アーサーは上機嫌で風の止んだ部屋へ入っていった。


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